一方、ガザ地区(人口200万人)が完全に封鎖されれば、電気、水道、ガス、食糧、医療品が手に入らなくなり、多くのパレスチナ人が苦しむ。ハマスは封鎖で苦しむパレスチナ人の姿をソーシャルネットワークで流し、イスラエル側の封鎖が非人間的だと国際社会にアピールすることが予想される。

ところで、当方はこのコラム欄で「中国共産党政権と人民は別だ」という記事を書いた。プーチン大統領の軍事的蛮行を受け、ロシアに対する制裁が実施されているが、ここでも「プーチン大統領とロシア国民は別か」という問題を提示してきた(「『中国共産党』と『中国』は全く別だ!」2018年9月9日、「プーチン大統領と『ロシア国民』は別」2022年10月8日参考)。それでは、「ハマスとパレスチナ人は別か、それともパレスチナ人はハマスか、という問題だ。

実際、制裁は蛮行を行う為政者や政権への影響より、その下で生きている国民、人民が最も被害を受ける。だから、欧米の人権擁護グループからは「制裁は最も弱い国民が被害を受けるだけで効果はない」という声が聞かれるわけだ。

ハマスは2007年、ガザ地区を支配して以来、パレスチナ人に対して社会的サービスを実施し、学校、幼稚園などを経営しながら、社会の隅々までその支配の手を浸透させている。

一方、ハマスの大規模なテロに対し、欧米諸国ではパレスチナ支援の停止を求める声が出てきている。欧州連合(EU)の欧州員会は、パレスチナ援助の見直しに取り組み出している。パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に1953年以来、積極的に支援してきた日本政府に対しても、「日本のパレスチナ人への支援金はハマスのテロを助けている」として、UNRWAへの支援を停止すべきだという声が出ている。日本はUNRWAに対し3320万米ドルを支援し、パレスチナ難民の教育、医療などを支援してきた。日本は2022年時点でUNRWAへの支援では6番目に多い拠出国だ。

なお、UNRWAは1949年、国連総会で設立された。東エルサレム、ガザ地区、ヨルダン、レバノン、シリアを含むヨルダン川西岸で活動している。教育、医療、社会サービス、保護、キャンプのインフラと改善、マイクロファイナンス、緊急援助など幅広い活動をしてきた。

英BBCはガザ地区から放映していた。中年のパレスチナ婦人は、「戦争はもうたくさんだ。私たちは平和な生活をしたい」と語っていた。ハマスの戦争ラッパに動かされるパレスチナ人と、イスラエル人との平和な共存を希求するパレスチナ人がいる。イスラエルの占領下で長い間生きてきたガザ地区では次第に前者のパレスチナ人が増えてきた。特に、パレスチナの青年たちには前者が圧倒的に多い。テロ組織「ハマス」と「パレスチナ人」は本来、同一のカテゴリーではないが、両者は接近してきた。パレスチナ人の本来のアイデンティティが危機にさらされているわけだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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