ブラック企業という言葉に代表されるように、コンプライアンス意識が著しく低い企業が糾弾されるようになっている現代。長時間労働や過度なノルマ、残業代の未払いなどさまざまなコンプライアンス違反が存在するが、なかには「正社員やアルバイトで採用して業務を任せる」という、当たり前の企業のあり方すら崩れつつあるところもあるようだ。それは「業務委託契約」の悪用をしている企業である。業務委託契約とは、業務の一部を外部企業や個人事業主に任せる契約を指し、雇用契約ではなく、あくまで受託者と委託者が対等である関係。雇用関係にはないので、「給与」ではなく「報酬」として労働の対価が支払われるのも業務委託の特徴だ。

 基本的に委託者は、受託者を個人事業主扱いで契約する場合、働く時間や業務遂行方法を指定することはできない。しかし、なかには業務委託契約であるもかかわらず、実質的には雇用契約と同等の関係にある「偽装請負」となるケースも少なくない。つまり、出勤時間が指定されたり直接指示を下されたりと、正社員やアルバイトと同じような扱いを受けることであり、労働者派遣法および職業安定法に抵触して違法行為となる可能性が高いのだ。

 また忘れてはいけないのが、個人事業主が労働基準法の適用外の立場であるということ。個人事業主への委託という形態であれば最低賃金も支払う義務が発生しないため、時間拘束されているにもかかわらず、報酬を換算すると最低賃金以下になるといった事例もあるという。SNS上でも、ある企業の社長が「○○名採用!」と投稿したものの、実際には業務委託契約であるというケースが話題になったこともある。

 そこで今回は、M&Nコンサルティング社会保険労務士・行政書士事務所代表で、1万人以上に対してキャリアカウンセリングを行ってきた中谷充宏氏に、偽装請負の実態や業務委託契約の闇について解説してもらった。

偽装請負は明確な違法行為…だが企業の罰則はさほど重くない

 偽装請負が増加する背景には、企業が労働基準法の束縛から抜け出し、都合よくコストカットや人材の使い捨てを図りたいという意図があるからだという。

「雇用契約を結べば、労働基準法により簡単に解雇することはできなくなりますし、社会保険などの費用も一部負担義務が発生するなど、企業側からするとデメリット面が大きい。しかし、業務委託契約にしてしまえば個人事業主扱いになり、労働基準法の適用外になるので、社会保険費も支払わなくて済みますし契約も切りやくなる。それに正社員、アルバイトとは異なり、有給を取得させる義務もありませんから、コストカットにもつながります。最低賃金の上昇に合わせて報酬を上げる必要も基本的にはないため、報酬の金額がずっと変わらない……なんてことも珍しくないんです」(中谷氏)

 企業にとってはメリットずくめのように思えるかもしれないが、偽装請負は明確な違法行為である。厚生労働省が発表している「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」によれば、「誰が仕事の指揮命令をしているか」によって偽装請負か判断できるとのこと。仮に労働現場の担当者が指揮命令を担当していれば、その時点で偽装請負となるのだ。

「違法行為である以上、仮に法廷で争うことになれば、ほぼ間違いなく企業が負けます。仕事の裁量が受託者側に委ねられていなかったり、報酬の労務対償性(労働の結果によって賃金の格差が生まれないこと)があったりすれば、労働者性が認められ、偽装請負だと判断されるでしょう。

 ただ残念ながら、仮に訴えられたとしても、あまり痛手にならない企業がほとんどなのが実情です。偽装請負が横行している企業では、そもそも偽装請負に関するノウハウが豊富な傾向にあるので不当な契約でも断行しやすい。また業務委託と称して募集している内容は、特別なスキルを必要とはせず、誰でもできるような仕事が多いので、仮に契約を切られたとしても代わりを見つけやすいんです」(同)

 訴訟を起こされて裁判で負けたとしても、現状の法律ではそこまで厳しく罰則が与えられないという。

「『職業安定法第64条9号』により、1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が課せられるのみ、とかなり軽い罰則となっています。また、そもそも業務委託契約を交わす個人事業主は、金銭的余裕がない場合も少なくなく、訴訟を起こせず泣き寝入りしていることも考えられます。もし受託者側が訴訟をちらつかせたとしても、和解金を提示して外部に問題を表面化させないこともあり得ない話ではなく、依然として実態がブラックボックス化したままという企業は珍しくないんです」(同)