疑わしい犯人が目の前にいながら無罪放免となり迷宮入りするという奇妙な事件がアメリカで起こっている。エリート弁護士はなぜ殺されたのか。そして彼の死体を洗った「3人の友人」はなぜ殺人犯と断定されなかったのか。以下、ロバート・ウォン殺害事件を紹介する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※ こちらの記事は2020年5月4日の記事を再掲しています。
2006年、32歳のロバート・エリック・ウォンは、全てを手にしていた。彼は名声高いペンシルベニア大学ロースクールを卒業し、アジア太平洋アメリカ法曹協会の会長候補であり、ワシントンDCのやり手弁護士だった。そして、バージニア州オークトンに美しい家を持ち、妻キャサリンと幸せな生活を送っていた。
彼は有能ですでに成功者で、この若者の未来は限りなく明るく見えた。しかし、そこには潜んでいる恐ろしい暗い影があったのだ。ロバート・ウォンは、ワシントンDCの歴史の中で、最も奇妙な未解決の謎の1つになってしまったのだ――。

ゲイコミュニティの家屋で殺人事件
2006年8月2日、ロバートはワシントンDCのオフィス街で、かなり遅い時間帯まで「Radio Free Asia」の法務顧問の仕事をしていた。ロバートは、オークトンの家まで疲れた身体で運転して帰るよりも、弁護士であり、大学時代の古い友人であるジョセフ・プライスの家に泊めてもらうことに決めた。
友人のプライスは、同性愛者であることを公言している同性愛者の権利弁護士であり、2人の男性、ビクター・ザボルスキーとディラン・ウォードと住んでいた。ロバートはゲイではなかったが、ゲイに対して何の偏見もなかった。ロバートが、ワシントンDCのローガンサークル地区にある、プライスのタウンハウスに到着したのは、午後10時30分頃であった。

ロバートが到着してから約1時間後、隣人が驚くほどの悲鳴をあげたザボルスキーがパニック状態で緊急通報の911に電話をかけた。今宵の客人であるロバートが何者かに刺されて血だらけになって倒れていたのだ。ザボルスキーはあちこちに血が流れていることを、気がおかしくなったように電話で説明した。
オペレーターは、救急隊員が到着するまで、彼と電話で話し続けた。到着した救急隊員は、2階の寝室で折りたたみ式ベッドの上に横たわったロバートの死体を見つけた。死体には胸部と腹部に3つの刺し傷があり、完全に絶命していた。ロバートの死体は、きちんと頭の下に枕が置かれ、シーツもすべて清潔で折りたたまれていた。ベッドには、格闘の兆候はまったくなかった。
ザボルスキーが緊急通報で叫びながら伝えていた内容とは違い、実際には現場には血はほとんど流れておらず、遺体は洗われたように見えた。ベッドの足元には、ロバートの所持品のブラックベリー、携帯電話、時計、歯用ナイトガード、現金入りの2つの財布などがすべてあった。ベッドの横には、血まみれのナイフとタオルが置かれたテーブルがあり、ナイフはおそらく殺人で使われた凶器だと思われた。
警察は、ロバートがこの家のどこかで刺されて殺された可能性が高い、そしてベッドの状態を考えると、死体は一度洗われて、ベッドに寝かされていたという一応の結論に達した。