ウクライナ戦争と同様に、中国の台湾侵攻は国際秩序の根幹を揺るがす。 台湾有事はエスカレーションの可能性をはらむ。 非人道的な行為を避けがたい。

右の座談会で語られた以下の指摘も注目に値する。まず、山添博史・主任研究官(米欧ロシア研究室)が、こう述べる。

ロシアの合理性には疑問符がつきます。ウクライナ軍の反応やロシア軍の状況などを十分に考慮できず、損得勘定よりも「ウクライナをどうしたいのか」という願望に沿って行動しているように思えます。(中略)結果的に相手側の結束を強化させています。これが私の考えるロシアの『非合理性』の中核であり、西側諸国の結束の強化は、おそらく衝撃としてロシアの指導者に受け止められていると思います。

そのとおりだが、残念ながら日本のマスメディアは、右の山添主任研究官が出演する番組を含め、損得勘定でしか、ものを見ない。考えない。私に言わせれば、安全保障は感情で動く。なのに、日本のメディア(とくにテレビ)はいつも数字を並べたて、「損得勘定」から憶測を語る。だから常に予測を間違える。

台湾有事でも必ず、そうなる。ウクライナへの侵攻直後、戦車や戦闘機の数だけで、ロシアとウクライナの「戦力比」を報じ、ウクライナの首都キーウを、平気でロシア式に「キエフ」と連呼しながら、「7日で陥落する」と予測(?)したように……。

山添は、こうも語る。

ロシアがこの状況下で財政的に耐えることができるのか、いつまで戦闘行為を継続できるのかを読み解く事は難しい。ただ、このウクライナ戦争の出口という文脈でいうと、どのような状況であってもプーチン大統領は負けを認めず、国民が貧することになったとしても制裁に耐え続けるように思われます。

ならば、こうも言えよう。

中国がこの状況下で財政的に耐えることができるのか、いつまで戦闘行為を継続できるのかを読み解く事は難しい。ただ、この台湾有事の出口という文脈でいうと、どのような状況であっても習近平主席は負けを認めず、国民が貧することになったとしても制裁に耐え続けるように思われます。

座談会での上記発言に続く、佐竹知彦・主任研究官の指摘にも注目したい。

一概に何が合理的かという議論はできないと思います。重要なことは、我々の持つ「常識」や「価値」で相手国の行動を推し量るべきではないということではないでしょうか。二○○○年代までは、多くの論者や専門家が中国はリベラルな国際秩序に組み込まれる、それが中国にとっても合理的だ、と言っていましたが、残念ながらこんにちの中国はそれとは真逆の方向に進みつつある。そこには、我々の考える「合理性」や単純な損得勘定を越えた問題が潜んでいるように思います。

そのとおりではないだろうか。なのに、なぜか、こうした指摘が少ない。それどころか、我々の持つ「常識」や「価値」で中国の行動を推し量る「報道」や論説が、いまだに後を絶たない。中台関係には、我々の考える「合理性」や単純な損得勘定を越えた問題が潜んでいるにもかかわらず、いまだに主要メディアは台湾有事のリスクを過小評価している。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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