台湾有事が与える衝撃を考えるうえで、避けて通れないのが、2022年2月24日の出来事である。

まずは、防衛研究所(防衛省)の年次報告書「東アジア戦略概観」(2022年版)の別冊として刊行された『ウクライナ戦争の衝撃』(インターブックス)から「まえがき」の冒頭を借りよう。

二〇二二年二月二四日、ロシアはウクライナへの大規模な軍事侵攻を開始した。ロシアは侵攻前に最大で一九万人ともいわれる兵力を国境付近に集結させ、ロシア軍はその圧倒的な兵力をもってウクライナに攻め入り、短期間で勝利を収めるはずであった。少なくともロシアはそう考えていた。

右を執筆担当した増田雅之室長(政治・法制研究室)は、次のページで「ロシア軍による侵攻開始から二カ月余り、世界は多くの衝撃に見舞われ、いまも我々は衝撃のなかにいる」として、以下の三点を挙げる。

「ロシアの軍事侵攻が国際秩序の根幹を揺るがしたという衝撃」 「ウクライナ戦争のエスカレーションの可能性」 「戦争における非人道的な行為についての衝撃」

同様に、同書第6章座談会の冒頭でも、こう述べる。

ウクライナ戦争が世界に与えた「衝撃」はおおむね三つあったのではないかと思います。一つ目は合理性なきロシアの全面的な軍事侵攻です。ロシアは国境付近に大規模に部隊を集結させていたものの、軍事侵攻の意図は否定していました。緊張が高まるなかで専門家たちも国家としての「収支決算」を考えれば、全面的な侵攻はないとみていました。

二つ目は、米国やNATOとの間で核戦争ひいては第三次世界大戦の勃発にまでエスカレートするのではないか、との不安を呼び起こす衝撃です。通常戦力で圧倒的に有利にあるロシア軍がウクライナ軍に苦戦し、戦争が長期化するなかで、エスカレーションの可能性が未だ否定できません。三つ目はロシア軍が民間人を標的とする攻撃をあからさまに行い、そうした状況がSNSを通じて世界中に拡散され、衝撃を与えました。これらの三つは、まさに国際秩序そのものへの衝撃といえるでしょう。

以上三つの衝撃はすべて以下のように〝台湾有事の衝撃〞となる。