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こんにちは、医師&医療経済ジャーナリストの森田です。
僕は3年前に医師人生で初めてクリニックを開業しました。
ご存じの方もおられると思いますが、僕はクリニックの開業以来毎月の診療報酬(従業員ゼロで経費も殆どかからない診療スタイルなのでほぼイコール自分の収入)の全額をSNSで公開しています。SNSで検索すれば毎月の診療報酬が出てくると思います。
ちなみに先月の診療報酬は全額で149万円でした。
おそらく全国でもそんなことをしている医師はいないでしょう。
「なぜそんなことをしているのか?」
そんなふうに聞かれることが多いので今回、詳しく解説したいと思います。
「医療はビジネスでなく社会の公的事業」僕はいつもSNSで報酬を公開するとき、最後に、
『医療はビジネスでなく社会の公的事業』という信念のもと、開業以来毎月診療報酬を公開しています。
と宣言しています。
医療は本来、「国民生活の安全保障」という側面が強く、患者さんの健康や幸福に最大限寄与するように、金銭的な条件に左右されずに、過剰でも不足でもなく適切な量と質で提供されるべきものです。
事実、多くの先進国では国や自治体の直営(国立・公立)として運営されています。そこに「採算」や「利益」という言葉はありません。だからこそ患者さんの健康や幸福を第一目標に医療を提供できるのです。
これが、「医療はビジネスでなく社会の公的事業」という言葉の意味です。
社会の公的事業であるなら、警察・消防やNPO法人、社会福祉法人のように、事業の報酬や収支は公開されて然るべきでしょう。
以上が、大きな意味で僕の「診療報酬公開」の理念です。
ここが報酬を公開する最も大きな理由なのですが、その中にはより具体的に以下の3つの意味があります。
1. 若手医師へのメッセージ日本の医療業界は、世界でもダントツトップクラスの過剰な病床持ち、また外来受診数も同じくトップです。人口あたりの病床数は英米の5倍あります。日本には英米の5倍も病人がいるのでしょうか?そんな訳はありません。でも現場の病院は常に満床を目指していて(実際に満床近く病床は埋められ)、そこでは何らかの医療が提供されています。
一方で医療業界は、医療崩壊や医師不足を叫んでいます。
病床や外来診療などの医療提供を減らせば解決するはずなのに、その努力は全く見られません。そんなことをしたら自院の経営が悪化してしまいますから。
その状況で若手医師は無自覚に過剰な医療を提供させられ疲弊しているのです。自殺を選んでしまう若手医師も少なくないのが現状です。
僕は週3〜4日しか働かない超ゆったり開業医です。
開業資金は7万円。従業員ゼロ、人件費もゼロ、経費も殆どゼロです。従業員がいないので、給与支払の心配もありません。
うちのクリニックは極端な例なのかもしれませんが…でも地域でプライマリ・ケア(かかりつけ医)をするならこれくらいの規模でも十分可能なのです。
実は海外のプライマリ・ケア医はレントゲンも胃カメラも何も持っていないのが普通です。必要なら病院に紹介して検査だけしてもらえばよいのですから(採血検査・点滴治療くらいはうちでも出来ます)。
「そんな僕でも月150万円くらいは稼げるんだよ。」
「過剰な医療を提供しなければいけないシステムから脱して本当の市民の健康や幸福を目指せるんだよ。」
というメッセージを、病院の中で疲弊している若手医師に投げかけているつもりです。
2. 医療業界へのアンチテーゼ週3〜4日しか働かない僕でも月150万円くらい稼げる。
この事実は医療業界へのアンチテーゼでもあります。開業医は「医師会」の政治力のおかげか、明らかに勤務医よりも高い報酬を得ています。税金もありえないくらいに優遇されています。自分の診療報酬を公開することでこれを誰の目にも見える形で提示する。これも「社会の公的事業」として必要なことだと思っています。
結果論ですがコロナ診療期に診療報酬が瀑上がりしたのを公開できたのも良かったと思っています(ワクチン接種をしていれば、ワクチン期の瀑上がりも公開できたのでしょうが…もちろんうちは接種事業に参加しておりません)。
もう少し詳しく言いますと、
診療報酬が月150万円、つまり年間1800万円 税金は開業医のみ特別に「概算経費」という「診療報酬の72%を領収書なしで確定申告時に計上していい」という謎ルールがありますので、1800万円×0.72=1296万円を経費として計上します。すると、所得は504万円となり所得税はわずか50〜60万円支払うのみとなります。週3〜4日働くだけでこの額ですから、普通の開業医はもっともっと多くの診療報酬を得ています。
そして、税金の上でもこれだけ優遇されているのです。