結局、地球に最も近い天体でさえ、移動自体が困難で、まして「移住」など夢物語に近い。隣の恒星に行くことは、冬眠にせよ何にせよ7万年以上生きる人間(?)ができてからの話だ。やはり、恒星間有人飛行は到底無理だと、私は考える。

私が「地球外生命」の目撃情報に懐疑的なのも、そのせいである。太陽系内で地球以外に高度な生命体があるとは考えられないし、太陽系外で最も近い天体は4光年の彼方にある。もしそこに人間と似た生命体がいたとしても、4光年の距離は遠すぎる。どうやって、地球まで来るのか?たとえ電波で通信できたとしても、1通信往復するのに8年以上かかるのに。他の天体は、もっとずっと遠い(「宇宙人からの通信」を傍受しようという試みは、かなり前から行われているが・・)。

太陽系を含む我々の銀河系は、直径約10〜20万光年、厚さ約1000光年の円盤で、2000〜4000億個の恒星を含むとされているから、銀河系内にも地球に似た惑星が存在し得るだろう。しかも宇宙には銀河系に類する集団が無数に存在する。だから、人間そっくりの生物が他の天体に存在していても不思議はないのだ。しかし、そこに生きる生命体に出会える確率は、ゼロに近い。

これらの天文学的知識は、逆に、地球と言う天体の特殊性を浮き彫りにする。まず、太陽と地球の距離が丁度良かった。近すぎれば金星のように暑く、遠すぎれば火星のように寒かったろう。水が固体・液体・気体の3態を維持できる温度・圧力条件が備わっていることも幸いした。さらに、内部が流動状態にあるため地磁気が発生し、それが太陽風などへの防護壁になって、大気の損失を防いだ(火星では、地磁気がないため大気が大半吹き飛ばされたとされている)。

また大気中に水蒸気などの温室効果ガスがあったお陰で、地球表面温度は生命活動に適する範囲に収まった(温室効果がないときの地球表面温度はー18℃と推定される)。

大気が存在し、中の酸素濃度が高まるにつれて成層圏でオゾン層が形成され、有害な紫外線が地表に到達するのを防いだので、生命体は海から地上に進出できた。大気中にCO2があったために地上で独立栄養生物の植物などが繁茂し、これをエサとして各種動物等の従属栄養生物が繁栄することができた。これにより、生態系内で生産者・消費者・分解者の共存が可能となり、地球上での水や各種元素(炭素、窒素など)の循環が可能になった。この物質循環システムこそ、地球上で生命体が永らく生存できたカギ要素である。

このように、地球では何重もの幸運が重なって、現在の生命あふれる星になっている。どの条件が欠けても、数十億年に及ぶ生命活動の持続はあり得なかった。従って、これほどの好条件に恵まれた惑星の存在確率は、相当に低いだろう。

人間の数が増大し、地球表面の様相も僅か数百年前と現在では一変している。現在の世を「人新世」と呼ぶのは、何も不思議なことではない。それ程までに、人間活動が地球環境に与えた影響は大きい。また科学・技術も進展し、確かに月に行ってくることも実現された。しかし、だからと言って、地球が住めなくなったら別の天体に・・などと簡単に言えるものだろうか?この地上には何十億もの人々が生きているのに。

結論を言おう。我々人類の住み処は、この地球以外にはあり得ない。地球を飛び出しても、住める場所はない、少なくとも太陽系内には。そして太陽系外は、最も近い天体でさえ4光年の彼方にあり、今のロケットでは着くまでに7万年以上かかる。とても、たどり着けない。

一方、地球環境は生命の維持にとって奇跡的とも言える好条件に恵まれている。我々の周囲の温度・圧力・酸素濃度その他の大気条件がすでにそうであるし、水と言う物質の「異常性」も生命にとって奇跡的に好都合にできている。

例えば、水は多くの物質を異常に溶かすし、分子量が小さいのに比熱が大きく気化熱も大きい。また、氷(固体)の密度が水(液体)のそれよりも小さいのは全くの異常である(密度が固体<液体である物質はほとんどない)。しかしそのお陰で氷山は沈まず、池や川の氷も沈まない。これらの性質が、生命にとって如何に有難いことか。

つまり、我々の住む星は、どんな条件から見ても「有り・難い」存在なのだ。その有難味を、十二分に味わうべきである。ゴミや吸い殻をポイ捨てし、食べ物をぞんざいに扱うなど、とてもできなくなるはずだ。また戦争は最大の環境破壊であるから、まずは戦いを止める必要がある。

人間など、奇跡的に恵まれた地球環境の下で生かされているちっぽけな存在に過ぎない。まずは、そのような謙虚な心持ちから、物事を考える方が良い。科学や技術が進めば何でも可能になるなどと、思い上がらぬ方が良い。このまま思い上がった行動を続ければ、人類は滅びる可能性が高い。大昔の「バベルの塔」や「ノアの方舟」の寓話も、それを物語るものである。

最近の「宇宙ブーム」は、宇宙関連技術が第一義的に軍事技術であることから目をそらせ、大きな資金に群がる人々の、宣伝材料に使われているだけに思える。人間には、地上でこそ先にやらなければならない重大事が多数ある。宇宙開発は無人機に限定し、資金・エネルギー・資源は、まず地上にこそ投下すべきだ。

マスコミの方々にお願いしたいが、科学番組や記事等で宇宙旅行などを「夢だロマンだ」などと燥ぎ立てず、宇宙空間が如何に過酷で大変なところであるかの現実を伝え、地球環境が如何に貴重であるかをもっと宣伝していただきたい。ついでながら、教育界の方々にも。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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