臓器移植は人々の命を救う1つの方法ですが、待機者が多く、実際に移植を受けられる人はわずかです。
また移植を受けたとしても、免疫抑制剤を服用し続けなければなりません。
これを解決するのが、「患者本人の細胞からバイオプリントした臓器を移植する」という方法です。
今回、アメリカのスタンフォード大学(Stanford University)の生物工学者マーク・スカイラー・スコット氏ら研究チームは、医療高等研究計画局(ARPA-H)との2630万ドルの連邦契約により、この夢の実現に向けた取り組みをスタートさせました。
彼らは、完全に機能する人間の心臓をバイオプリントし、5年以内に生きているブタに移植することを目指しています。
詳細は、2023年9月28日付で、『スタンフォード大学のニュース』にて報告されました。
「人間の臓器をバイオプリントし移植する」という現代医学の挑戦
臓器移植を受けたとしても、その臓器はあくまで「他人の臓器」です。
身体の免疫系は移植された臓器の細胞を異物として認識し、拒絶反応を起こして攻撃します。
これを抑えるために患者は免疫抑制剤を服用し続ける必要がありますが、この薬は同時に、患者がもつ他の病気に対する免疫も低下させてしまいます。
そのため私たちにとっての理想は、「自分の細胞から臓器を複製して移植する」という方法でしょう。

これを可能にするのが「幹細胞科学」と「3Dバイオプリント技術」です。
幹細胞は、分化能(様々な細胞に分化する能力)と自己複製能(同じ細胞を分裂して作る能力)をもっています。
そのため患者由来の幹細胞を用いて臓器を構成する様々な細胞を生産し、それを組織としてプリントするなら、拒否反応のない「患者自身の臓器」を作り上げることができるでしょう。
このビジョンは、まさに現代医学の夢であり、多くの研究機関が挑戦を続けてきました。
2020年には、アメリカのピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)が小型のヒト肝臓をバイオプリントし、マウスに移植することに成功しています。
iPS細胞から培養した「ヒト肝臓」をラットへ移植することに成功! ドナー不足問題に明るい兆し
そして今回、スタンフォード大学の研究チームに所属するスコット氏によると、彼らも「夢に手が届くところまで来ている」ようです。