円高ドル安が進む時代に翻弄された、最後の「ZらしいZ」
ロングノーズ・ショートデッキの古典的スポーツカースタイルを持つ3ドアファストバッククーペ、北米で「Z(ズィー)カー」と呼ばれた日産 フェアレディZですが、「プアマンズポルシェ」と呼ばれた1台でもあるように、安価でカッコイイのも魅力でした。
ただしそれは3代目Z31の前期型までの話で、1985年に「プラザ合意」と呼ばれる先進国間の合意で日米貿易摩擦解消のため円高ドル安が進むと、北米に輸出されていた日本車の高価格・高品質化の波にZ31も飲まれていき、後期型からはラグジュアリー志向が強まります。
いわば「最後のZらしいZ」となったZ31型は、MOBY編集部がAIに聞いた「30~50代のクルマ好きが気になる名車」にもノミネートされており、この世代ではチューニングベースとして人気だった時代を記憶している読者も多いことでしょう。
直6のプアマンズ・ポルシェからV6ラグジュアリースポーツへ
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エコノミーモデルですら(日本の感覚では)大排気量のV8エンジンを積むことが多い北米では、1970年代のマスキー法(大気浄化法)やオイルショック後の省エネ・低排出ガス志向による小排気量化でもV型エンジンを好む傾向がありました。
さらに、初代S30型(1969年)が発売された当時の1ドル360円時代ならいざ知らず、円高ドル安で日本から輸出されるクルマの価格は年々上がっており、「安いプアマンズ・ポルシェ」の最右翼的存在だったフェアレディZも、価格に見合った付加価値を求められます。
こうした背景から、日産では北米だと廉価モデル用の扱いになる直列6気筒エンジン「L型」から、新型のV型6気筒エンジン「VG型」への転換を進めており、3代目Z31型フェアレディZも、VG搭載車として1983年9月に発売しました。
とはいえ北米で人気を得るべく開発され、その目論見通り「Z(ズィー)カー」として一斉を風靡した初代S30/2代目S130の後継車ですから、全長が短いV6エンジンを積むFRスポーツクーペといえども、ロングノーズ・ショートデッキのスタイルは変わりません。
発売当時はVG20ET、VG30ET、VG30E(※日本未発売)と3種のエンジンが設定され、日本本国では2リッター/3リッターのSOHCターボ車として強力な動力性能をアピールしたほか、輸出先でも「安くていいクルマ」から、高品質・高性能モデルへの転換を図ります。
特徴的だったのは空力重視デザインによるセミ・リトラクタブルヘッドライトの採用で、当時の国産車にも多かった「リトラ」の波に乗ったスーパーカースタイルとも言えますが、スポーツカーとして認知されていたフェアレディZにはよく似合いました。