9月19日、金融庁がビッグモーターの保険金不正請求問題に関して同社と損害保険ジャパンに立ち入り検査に入った。金融庁が保険会社の立ち入り検査日程を事前に知らせ、メディアに撮影許可を出すことは近年見られなかったことだ。それだけに、金融庁の本気度がうかがえる。金融庁はどんな観点からメスを入れていくのか。

 金融庁は三井住友海上火災保険に追加の報告徴求命令を出している。同社は損保ジャパンと同様にビッグモーターに社員を出向させており、その実態調査が目的とみられるが、

 もう一つの目的が報道内容の事実確認だろう。昨年6月頃に損害保険会社各社がビッグモーターとの取引を停止するなかで、損保ジャパンは同社との取引を再開し保険契約シェアを拡大させたが、損保ジャパンが7月6日に開催した非公式の役員会のなかで、三井住友海上がビッグモーター経由の保険契約を獲得するために同社に対して不正を深く追及しない旨を伝えていると、ある役員が発言したと報じられている。その発言が、損保ジャパンがビッグモーターとの取引を再開するきっかけとなった。ちなみに筆者は三井住友海上にビッグモーターとの間で当時そのようなやりとりがあったのかを確認したが、「そのような事実はない」という。

 実は損保ジャパンはビッグモーターとの保険代理店契約を解除すると発表した今でも、解除には至らず、ビッグモーターへの監督責任は続けている。なぜなら、損保ジャパンはビッグモーターの代理店申請会社(以下、代申会社)だからだ。複数の保険会社の商品を取り扱う乗合代理店は、そのなかの1社を代申会社として指定し、代申会社は保険代理店の申請や登録を行うほか、他の保険会社の登録手続きも代理で行う。

 すでに東京海上日動はビッグモーターとの保険代理店委託契約を10月1日付で解約すると発表し、三井住友海上は解約を含めてさまざまな選択肢を検討していると発表している。しかし、代申である損保ジャパンの場合は事情が違ってくる。代わりに代申を引き受けてくれる保険会社が現れなければ、損保ジャパンが代申のままだ。自動車事故や自損事故は日々発生している。契約者保護は何よりも優先しなければならない。

白川社長がいう「局地的」とは

 損保ジャパンの動きを調べるなかで、保険業界者も、クビをかしげる事実が浮かび上がる。

 8日に損保ジャパンと持ち株会社、SOMPOホールディングス(HD)が行った会見で配布された資料によれば、白川儀一社長(当時)が担当役員からビッグモーターの内部通報や損保ジャパンの自主検査の結果報告を初めて受けたのが昨年5月17日。7月6日に白川社長は非公式の役員会でビッグモーターから提出された調査結果が修正されていた事実を聞き、ビッグモーターとの「関係を維持しつつお客様の保護も早期に図れる方法」として入庫紹介の再開を決定し、7月25日から再開したという。

 白川社長は「ビッグモーターの報告書は局地的で広義ではないと認識した。調査を再開しなかったのは、ビッグモーターとの関係性が悪化することを懸念した。お客様のことを優先すべきだった。私の経営判断ミス」と会見で謝罪した。白川社長がいう「局地的」とは何を意味するのかは明らかにされていないが、一般的にコンプライアンス部門は社内でも客観的な立場に立つ。複数の業界関係者は「不適切な保険金請求の事案とあれば、コンプライアンス担当役員は、報告書に局地的とあっても、広義的な可能性も考えるものだ。本当に会議ではコンプライアンス担当役員は何の指摘もしなかったのか」と疑問を呈する。

 会見で筆者が質問したのも、まさにコンプライアンスに関することだった。今は削除されたが、ビッグモーターのHP上には推奨保険会社の記載があった。保険業法に基づき、保険代理店が特定の保険会社の商品を推奨する場合は、その理由を説明した上でお客さまの意向を確認するのが法律で定められている。ビッグモーターでは地域ごとに推奨保険会社が決められ、多くの地域で損保ジャパンが推奨されているが、その理由が書かれていない。筆者はその点について会見でコンプライアンス担当の槇絵美子取締役常務執行役員に質問したが、槇氏は「ありがたいご意見をいただいて」を繰り返した。

 この質問で聞きたかったのは、損保ジャパンはビッグモーターのコンプライアンスをしっかり管理していたのか、そして適切に保険提案を行っていたのかということだ。保険会社のなかには、保険会社の社員が代理店への保険提案時に保険設計書にラインマーカーを引いても「加工した」と見なされ、コンプライアンス違反とされる。