PIT:「オーイ、よっしー(第1ドライバー、カー・アンド・ドライバー統括編集長・山本善隆の愛称)、聞こえるかぁ? オーイ、聞こえたら返事してぇ~。」
D山本:「(シーン)」※応答なし

これが我がカー・アンド・ドライバー号(以下、CD号)のレース・スタート直後である。このレースは無線通話の手段として携帯電話(以下、ケータイ)の使用が認められているので、ドライバーとピットは、ケータイで様々なやりとりをしながらレースを進めていく。
具体的にはドライバーがメーターに表示される走行距離や平均燃費を報告し、ピットではその数字をもとにパソコンを使って、ガソリン残量や走行可能周回などを計算。それに基づいて、ペース(アップ・ダウン)や、走らせ方(燃費重視・ペース重視)などをドライバーに指示をする。

しかし、レースがスタートしてすぐに、第1ドライバーの山本とケータイがつながらなくなってしまったのだ。
いきなり波乱の幕開けである。レースの根本を揺るがすトラブル発生で意気消沈はしたものの、ピットは慌てなかった。というのも、ケータイがつながらなくなるという事態は当然のことながら想定済みで、もしつながらなくなっても、各ドライバーには守るべき燃費とキープしたいタイムを伝えていたからだ。
すぐさまピットではサインボードを用意し、ラップタイムを掲示しながら、山本もそれを確認しながら淡々と走行を続けていく。
ロードスター誕生から34年続く伝統のレースが”メディア4耐”
メディア4耐、正式なレース名は『メディア対抗ロードスター4時間耐久レース』。1989年の初代ロードスター誕生から始まり、今年で34回目を迎える。
毎年、「走る歓びの体験と情報発信を行うことによって、日本のクルマ文化を育むことに貢献すること」を目的として開催され、自動車雑誌、ラジオ、テレビだけではなく、YouTubeを含めたさまざまなメディアが参加、今年は全21チームが4時間先のゴールを目指した。
(マツダをはじめ、主催者、スポンサーのみなさま、毎年このレースを開催していただき、本当にありがとうございます!)

このレースのレギュレーションを簡単に紹介すると、以下のポイントがある。
・レース時間は4時間
・ドライバーは4~5人
・1人のドライバーの連続運転時間は50分、合計運転時間は96分まで(ただし助っ人は40分まで)
・ガソリンは給油1回(20L)で合計60L
・競技車両は改造禁止で完全にワンメイク
・チーム編成と昨年の結果によりハンデキャップ(ピットストップ)を課す
注目していただきたいのは、ガソリンが合計60Lに制限されているので、全開で走り続けてしまうと燃料が足らなくなり、”ガス欠”してしまうこと。つまり、ある程度エコラン(ガソリンをセーブ)しながら、ギリギリまでガソリンを使ってなるべく多くの周回を行い、4時間後に振られるチェッカーフラッグを受けることが必要とある。

予選は昨年同様、瀬在仁志(モータージャーナリスト)が担当。昨年は思うような結果が残すことができなかったので、今年はレース前には大好きなビールをセーブして臨む気合いの入れようだった。
予選は朝方の雨が残ってコースはあいにくのウェットコンディションからスタートしたが、雨は降っておらず路面はどんどん乾いていく中、瀬在は渾身のアタックを続けていく。そしてラストラップでタイムを出そうとしていたのだが、コントロールラインを通過する前にチェッカーフラッグが振られてしまった。
結果は13位。昨年よりも大きく前進したことは嬉しいが、あと5秒チェッカーが出るのが遅ければ…、と思うと、悔しさは残る結果となった。

昨年の順位を上回るべく、入賞を目指して臨んだ今年のレース
CD号は昨年、このメディア4耐に28年ぶりに復帰した。その結果は惜しくも入賞(6位以内)を逃す7位で、目標はシングルフィニッシュ(9位以内で完走)だったので上々なものだった。しかも、予選順位から一番ジャンプアップしたチーム(昨年の結果は予選21位→決勝7位)を表彰するクスコ賞をいただいた。今年は着実に”入賞”を目標にたて、レースに臨んだ。
昨年のメディア4耐は12月に開催されたので、気温が例年よりも低かった(というより、寒かった!)こともあって、タイヤへの負担は大きくなく、燃費面でも有利な方向に働いたこともあり、CD号は想定よりも燃費が余る方向でレースを進めていった。そのため第5ドライバーの瀬在は、ひたすら全開走行!という展開になってしまった…。つまり、レース全体で効率的な燃費で走ることができなかったということである。
そこで今年はある程度、全ドライバーがまんべんなくガソリンを使いながら、タイムも稼いでいくという作戦を立てた。最終的には昨年優勝チームが記録した182周を目標に立てることにした。筑波サーキットは1周2.045kmだから、182周だと約372km走らなければならない。与えられたガソリンは60Lだから、燃費は6.2km/L以上で走る必要がある。このあたりの数字はどのチームもわかっていることで、問題はこの燃費でいかに早くロードスターを走らせることができるのかが勝負のポイントとなる。各チーム、エコランのやり方は様々あるようで、上限回転数の設定もバラバラのようだ。実質参戦2年目のCD号は、その正解を探りながらの走行となる。

さて、第1ドライバーの山本から第2ドライバーの岡本幸一郎(モータージャーナリスト)にバトンが引き継がれたときに、ピットでは初めて燃費を知ることになる。これが6.9km/Lだったからビックリ!もっとガソリン使っても良かったのに、山本は通話ができなかったなかではチャレンジすることはせず、チームで定めた標準的な走り方で淡々と走行を続けたという。ピットからはサインボードでラップタイムと合わせて「↑(上向き矢印:ペースアップしろ)」を掲示していたのだが、残念ながらそれは見えていなかったという。まあ、ガソリンを使いすぎたわけではないので、ヨシとしよう。そこで岡本には、しばらくガソリンを使ってでもラップタイムを上げてくるように指示する。岡本は慣れないエコランをこなしながらその指示に見事に応え、第3ドライバーのモータージャーナリスト・大谷達也(モータージャーナリスト)に引き継ぐ。
