「X」において国連憲章における「旧敵国条項」が少し話題になっているのを見た。

確かに「旧敵国条項」は、ほとんど陰謀論めいた話をする反米左派・反米右派が、大同団結して国際社会への不信感を国民に植え付けるために、脚色して数十年にわたって語り続けている話題である。しかし学術・実務の世界では、「死文化している」という結論が確定している。

それにもかかわらず日本の国会議員が、「旧敵国条項」の現代の適用可能性を唱えるというのは、由々しき事態である。事の発端は、石破茂・衆議院議員のブログであったらしい。以下、引用する。

第二次世界大戦の戦勝国が当時の国際秩序を維持する目的で創設した「UnitedNations」(対枢軸国戦勝国連合機構)を、あたかも世界政府であるかのごとき響きを持つ「国際連合」と敢えて訳したところから、日本人の国連幻想は始まっています。

国連憲章第53条と第107条に定められた「敵国条項」により、安保理の決議がなくとも武力行使の対象となる「旧敵国」には日本、ドイツ、イタリア、フィンランド、ブルガリア、ハンガリー等が挙げられるのですが、日本とドイツ以外は途中で枢軸国を脱退して連合国側につき、日独に宣戦布告をしているため「敵国」には該当しないとされ、旧ドイツはヒトラーの自決により成立したデーニッツ政権を連合国側が国家として認めなかったために法的には国家として消滅しており、現在のドイツとは国家としての連続性がなく、結局枢軸国国家として現在まで連続しているのは日本だけである、とする見方もあります(故・色摩力夫・元駐チリ大使)。

敵国条項は国連総会において死文化が確認され、次期の憲章改正で削除されることになっていますが、それまでは条文として有効であり、ロシアが北方領土占拠の根拠としているように、いつこれが援用されるかわからない状況にあります。

石破氏は読書家で知られているが、乱読に走らず、質の高い本を優先して読む心がけもしてほしい。まじめな国際法学者・実務家で「旧敵国条項は日本に対してだけはいつでも援用できる」などと考えている方はいない。そもそも「死文化が確認され」、「削除される」予定が国連総会で決議されている。それにもかかわらず、どうやって「いつこれが援用されるかわからない状況」にあると主張することができるのか。

石破茂氏 同氏Twitterより

石破氏のブログの文章は、この後、「日本はこの国連軍に参加し、武力を行使することを正式には可能としてい」ないので「常任理事国入りを目指すことには、かなりの無理がある」、「国連憲章第51条に定められた集団的自衛権は・・・、日本人の多くが誤解しているような、『大国とともに世界のどこにでも行って武力を行使する権利』ではありません」、「理論的にはウクライナ救援のために集団的自衛権を行使する可能性はNATOにもあったわけです。にもかかわらず、かなり早い段階でアメリカはこれを否定しました。それがロシアの誤算を招いたとの説もあります」、「ウクライナ侵略の停戦の方法については、国連総会における『平和のための結集決議』(ESS)を活用すべき」(篠田注:すでに援用されている)、などの言葉が並ぶが、結局何を言いたいのか論旨が不明であるのみならず、それぞれの発言が前後の発言とどのように論理的に整合しているのかも全く不明な内容になっている。

石破氏は、首相候補と目されて久しい。世論調査では常に有力首相候補として扱われている。そろそろ「何を言っているのかわからないが石破氏は博学の方のようだ」という階層にだけ語りかけるだけでなく、しっかりとした知識を持っている専門家層からの評価を得て固い基盤づくりをすることを目指してほしい。

国連 国際連合 UN

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この問題は、実務的には、1995年の第50回国連総会で「時代遅れ(obsolete)」であり「いずれの国連加盟国にも向けられたものではない」ことが確認され、改正・削除が賛成155反対0棄権3で採択された時点で、結論が完成している(A/RES/50/52, 15 December 1995)。

2005年9月16日国連総会特別首脳会合採択の「成果文書」においても「『敵国』への言及の削除を決意する」と明記された。そもそも総会決議の前から、国際法学者の多数は、「死文化」している、と考えていた。総会決議は、その理解を正式に確認したものだ。

石破氏が日本語のブログで「いつでも援用できる」と主張してみたところで、どこにも響くところはない。