経営理論を別にして、首相の真意は「賃金は抑制(コストカット)しないで、賃上げをどんどんしてやってほしい」、「原材料費が上がったら(コスト増)、販売価格をどんどん上げてほしい」あたりにあるのでしょうか。

つまり値上げ(インフレ)と賃上げの好循環を作りたいのでしょうか。消費者物価は前年比で3%以上も上がり続け、政府の物価政策(ガソリン代補助など)を考慮すると、実質的に4%台に達するでしょう。

日銀は「2%目標を持続的に達成できるかま自信が持てない」といい、異次元金融緩和(日米金利格差による円安要因)を修正するつもりがない。ですから「もっともっと物価を上げを」、「物価高で実質賃金がマイナスにならないよう、賃上げを」が首相の本音でしょうか。

首相の発言は矛盾だらけです。企業のコストに占めるエネルギ・コストは大きく、企業は節電に努めています。「コストカット型からの転換」といってしまえば、原油高=ガソリン代の高騰(コスト増)に対し、コストカットしないでいい、つまり放置していても構わないことになる。その一方でガソリン代の政府補助は年末まで延長する。矛盾しています。

経営原則である「コストには必要不可欠なコストと、見直し可能なコストがあり、それを見極めること」とはお構いなしに、「コストカットは不要」といってしまってはいけない。

人件費については、派遣社員、契約社員の雇用による人件費削減は、企業にとって人件費の抑制にはなっても、労働者全体としてみると賃金が伸びず、デフレの一因になってきました。これからは「賃金抑制より、賃金の増加を」は正解かもしれない。そうであっても、労働者が生む成果に対する適正な支払い(コスト)という視点を忘れてはいけない。

岸田首相の看板は「新しい資本主義」でした。網羅的にあれこれ手をだすことにしていたのに、今度は「経済対策5本柱」として、「物価高から国民生活を守る。持続的な賃上げ。成長力を強化する国内投資の促進。人口減対策。国土強靭化と防災」を掲げました。

スローガンは多くても、全体としての整合性が欠けています。最大の問題は「どんどん値上げを」と言いながら、「円相場はどんどん値下げ」を貫いています。円の実力(実質実効為替レート)は過去最低で、1970年8月を53年ぶりに下回りました。「1ドル=360円の固定相場だった当時より、円の価値が割安になっている」(日経)。

円安が最近では、1ドル=150円に近づき、輸入物価を押し上げ、国内物価高要因になっています。ここで掲げるべきは「コストカット型からの転換」ではなく、「円安誘導型、異次元金融緩和からの転換」のよる円の実力の再建です。つまりアベノミクスの否定、修正から始めるべきです。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年9月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?