「オフショアエンジニアリング市場の不況」について調べると、原因は11年から1バレル90ドル台で推移していたWTI価格が、米国のシェールオイル増産による供給過剰で14年秋から下がり始め、16年2月のリーマンショック後に26.21ドルまで下落したためだ。

この時期、日本唯一の海底資源掘削会社「日本海洋掘削」も、11年に平均98.2%だった稼働率が16年には18.6%になり、3期連続赤字で債務超過に陥った。18年6月に会社更生法の東京地裁に申請して受理され、23年4月にJX石油開発の子会社になった。

「ISN」記事に戻れば22年7月、上海海洋石油局(SOOC)、太平石化金融リース公司、およびDISCも海底掘削プロジェクトの再開に向けた契約を締結し、8月に「West Proteus」は「勘探8号」と改名され、息を吹き返してという流れの様だ。

SOOCの前身は、60年に設立された地質鉱物資源省の渤海総合地球物理探査チームで、70年5月に同省の「627プロジェクト」に加わった後、73年4月に海洋地質調査局、89年5月に海洋地質調査局と改名後、SOOCとなった。

ロバート・D・エルドリッジは「尖閣問題の起源」(名古屋大学出版会)の第3章「国連ECAFEの調査と尖閣問題の起源」で、「一説によれば、尖閣諸島をめぐる問題の起源は、台湾と中国が公式にこれらの領有権を主張した1971年ではなく、その10年前にある」と書いている。

61年に地質学者の新野弘教授が発表した東シナ海尖閣周辺の「浅海部の沈積層」に関する論文が、この海域の「大陸棚や海底に豊富な石油と天然ガスが埋蔵されている可能性を指摘したので、世界の地質学者と国際石油資本の注目するところとなった」というのだ。

一般に「ECAFEによって1969年に発表された」研究によって、「尖閣周辺地域」の「採掘権と石油利権の競争」が始まったとされるので、新野論文はこれに8年先行する。これが同時期に中国が「渤海総合地球物理探査チーム」を設けた目的の一つだった可能性もある。

「ISN」に拠れば、現在のSOOCは、中国石化(シノペック)傘下の上海海洋石油ガスと海洋石油エンジニアリングを含むグループの総称で、シノペック唯一の海洋開発専門チームとして、中深海での石油やガスの探査・開発を行っている。

その海域は、東シナ海、南シナ海、黄海、渤海のみならず、サハリン、ブラジル、メキシコ湾にも及び、東シナ海の日中中間線付近で発見された平湖や春暁などの石油・ガス開発にも重要な貢献を果たしているそうだ。

またSOOCは、「勘探8号」の他に「勘探2号」・「勘探6号」・「勘探7号」のジャッキアップ式掘削リグと、半潜水式掘削リグ「勘探3号」・「勘探4号」を保有する。シードリル社がキャンセルしたものを買ったのだろう。

F&Gに拠れば、昨年11月時点で32基の「JU2000E」同型機が建造中という。翻って、世界有数のEEZを持つ我が国の現状はどうか。尖閣周辺の石化資源はもちろん、メタンハイドレートやマンガン団塊などの開発状況は?

資源エネルギー庁は19年2月、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を改定した。冒頭には、エネルギー・鉱物資源に乏しく、その需要量のほとんどを輸入に頼り、常に資源の安定供給に不安を抱えている日本は、領海・排他的経済水域に広がる海洋エネルギー・鉱物資源を有しているとある。

続けて、「海洋エネルギー」を「メタンハイドレート」と「石油・天然ガス」とし、「海洋鉱物資源」を「海底熱水鉱床」と「コバルトリッチクラスト」と「マンガン団塊」と「レアアース泥」として、それぞれの改定ポイントをこう説明している。

メタンハイドレート:将来の商業生産を可能とするための技術開発を進めるとし、太平洋側に主に存在する砂層型と、日本海側に主に存在する表層型について、海洋環境を保全しつつ長期安定生産するための技術開発、資源の分布と海底の状況を把握するための調査、海域の環境の調査などを行う。

石油・天然ガス:新たな探査船により詳細な地質情報取得を目指すとし、高度な探査能力を持つ探査船「資源」を使って国主導で調査を行ってきたが、改定では、10年間で5万平方kmの海域を新たな探査船を活用して探査し、民間企業の参加も促す。

以下、海底熱水鉱床:経済性を含む総合評価を実施、コバルトリッチクラスト:2028年までに商業化の可能性を追求、マンガン団塊およびレアアース泥:府省が連携して研究に取り組む、などとある。計画だから仕方がないとは言え、「引き続き」「調査」「探査」ばかりでため息が出る。

改定「開発計画」は19年からの5カ年計画だから残りは1年だが、筆者はこの関係のビッグニュースは寡聞にして知らない。この際、再建なった「日本海洋掘削」の「リグ」を「白樺ガス田」辺りに設置して、中国に「受け入れられない」と言わせてみてはどうか。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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