経営自由度が低かったウェンディーズ
4月に買収したロッテリア(ゼッテリア)は、ゼンショーに欠けていたハンバーガーチェーンの穴埋めをすることになる。
ゼンショーがハンバーガー市場に参入するのは二回目だ。かつて、米ハンバーガーチェーン「ウェンディーズ」を国内展開していたが、7年で撤退している。経営の自由度が低かったからだ。
米「ウェンディーズ」と結んだのは、フランチャイズ契約(エリアフランチャイジー)だった。意思決定の大半は米国本部が行う。新商品導入や日本独自の対応などについても、本部の承認が必要となる。経営の自由度は極めて低かった。契約6年目に、米ウェンディーズがファンドに買収され、自由度はさらに低下した。
「ゼンショーのよさを生かした商品政策がやりにくい」
こう考えた小川社長は、フランチャイズ契約を打ち切り、ハンバーガー市場からの撤退を決めた。
経営自由度もシナジーも高いロッテリア今回の再参入は状況が大きく異なる。
まず、ロッテリアの全株式を取得し傘下に収めている。新商品開発がやりやすい。環境変化に迅速な対応ができる。経営の自由度は極めて高い。
ロッテリアが「ロッテ」から離れたことも好影響を及ぼす。
かつてロッテリアが顧客調査を実施したとき、意外なコメントが寄せられた。
「シェイクがおいしい」
というものだ。ロッテリアでは「シェイク」などスイーツが人気だった。「スイ―テリア」と称しスイーツ販売を強化したこともあった。これは親会社であるロッテとのシナジー効果(総所効果)によるものだ。ロッテは、モナ王・雪見だいふく・レディボーデンなど冷菓の製造販売をしている。スイーツ関連のシナジー効果(相乗効果)が大きかった。
とはいえ、ハンバーガーチェーンにおいて「スイーツ」はサイドメニューだ。メインメニュー「ハンバーガー」でシナジー効果がある方が望ましい。
ゼンショーには、原材料の調達から、製造、加工、物流、店舗販売まで一貫して運営する仕組みがある。牛丼の「すき家」をはじめ、ハンバーグの「ココス」「ビッグボーイ」「ヴィクトリアステーション」、焼肉の「牛庵」「いちばん」など、数多くの「肉」事業を傘下に収めてもいる。
ゼンショーの「ミート(肉)シナジー」は、ロッテとの「スイーツシナジー」よりはるかに大きな収益をもたらすはずだ。
ロッテリアとゼッテリアの違い今回、田町に1号店をオープンした「ゼッテリア」。ロッテリアとは、商品と価格に違いがある。
商品面では、コーヒーがゼンショーが推進する「フェアトレードコーヒー(※)」に切り替わった。
※ フェアトレードは、立場の弱い開発途上国から適正価格で継続的に購入することで、途上国の生産者・労働者の生活改善を目指す「公正な取引」をいう。ゼンショーは理念である「世界から飢餓と貧困を撲滅する」に基づきフェアトレードコーヒーを推進している。

ゼッテリア フェアトレードコーヒー
ハンバーガーの見た目も大きく変わった。バンズが、従来の円形から、リブサンドなどに使われるホットドッグ型に変更されている。
価格は、ロッテリアでは860円の「絶品チーズバーガーセット」が、ゼッテリアでは690円と170円低く設定された。バーガーの形状・大きさが異なるため一概に比較できないが、お得感はあるようだ。
ゼッテリアは、ロッテリアの進化形業態という位置付けだ。既存のロッテリアを新名称に統一するかは明らかにされていない。
好相性と理念の隔たりマニュアル経営を推し進めてきたロッテリアと、「サイエンス」思考のゼンショーは相性が良い。
一方、ロッテリアの企業理念「すべてのお客様に感動と満足を」と、ゼンショーの企業理念「世界から飢餓と貧困を撲滅する」には大きな隔たりがある。ゼンショーの理念が、ロッテリアにどの程度浸透したのか。ゼッテリアがその試金石となるだろう。
小腹を満たし財布に優しいゼッテリアゼッテリアの小振りなバーガーは、「世界の飢餓と貧困の撲滅」にはまだ届かないが、筆者の小腹を満たし財布にも優しかった。
初日の客の入りはまずまず。店舗を増やし、安価なバーガーを多くの人に提供して欲しい。これからのゼッテリアに期待する。
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【注釈】
※1,2 サンパチトリオ:80年代後半のロッテリアの380円のハンバーガーセット。マクドナルドの「サンキューセット」(390円)に対抗したもの。 サンテオレ:明治乳業傘下のハンバーガーチェーン。2006年明治グループを離脱 森永ラブ:森永製菓傘下のハンバーガーチェーン(バーガーキングが買収)
※3 マスマーチャンダイジングシステム(MMD):原材料の調達から、製造、加工、物流、店舗販売まで一貫して運営する仕組み
【参考】
「ビジネス三國志-マーケティングに活かす複合競争分析」(プレジデント社) 「失敗するから人生だ。」梅沢 正邦 (著)/東洋経済新報社 「非情な社長が『儲ける』会社をつくる」有森隆 (著) /さくら舎 これがゼンショー流の成り上がり術だ ゼンショー・小川社長が語る経営哲学 | 東洋経済オンラインCONCEPT2023
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提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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