私事にわたるが筆者も昨年4月から1年間、輪番で149戸が入居するマンションの「副理事長」に就き、くじ引きで「防火防災責任者」を当てた。「責任者」になるには講習を丸2日受け、テスト30問に合格して「修了証」をもらう必要がある。

入居する数百人のために是が非でもテストに合格せねばと、約200人と共に大教室風の会場で講習に臨む。が、マイクの音響が悪い上、マスクの講師は早口まくし立て、耳の遠い筆者は何を言っているのかさっぱりだ。

しばらく我慢したが、堪らず手を挙げ「もう少しはっきり・ゆっくり話して下さい」とお願いすること再度、そうこうしているうち午前の講義が終わる。午後もこの調子では敵わんとばかり、教壇の講師にこう詰め寄った。

そちらは毎日のことかも知れないが、こちらは一生に一度。地区の防火防災責任者の使命を全うするために来ている。明日はテストがあるのでしょう? 座談ではなくて大教室なのだから、お願いしたようにはっきり・ゆっくり話してもらいたい。

するとほぼ同輩らしき講師は、「実は私も今日が初めてなんです。午後の講師は別の方です」と平謝りの体。「テストは全員必ず受かるので安心して下さい」と付け加えるではないか。不審に思いながらも、以後その講師の授業はないまま、二日目の午後を迎えた。

テキストを示しては「ここ大事ですよ」と講師が頻りに言う。「ここがテストに出る」の符丁と気付き慌てて下線を引く。そして全員が合格した。無事に「責任者」の任期は過ぎたが、斯くも安直な「修了証」で良いのだろうか。

閑話休題。この台湾大地震は後にさまざま日本と関係した。日本政府は地震発生直後から警察、消防、海上保安庁に応援要員の派遣要請(但し、機微な自衛隊を除く)、正午には各員羽田空港に集合待機し、その日の午後と夕方台湾に最初の派遣隊が一番乗りした。

被災現場に到着すると、オレンジ色の制服を着た救助隊は、靴を履いた警察犬とハイテク機器を使い、南投県忠寮鎮などの倒壊した建物を一軒一軒回り、生存者の捜索を行った。総勢は世界最多の145名に及んだ。

台湾赤十字社のサイトによると、日本赤十字社に寄せられた義援金は約12億2千万元(今のレートで約56億円)に上り、各国赤十字社の合計16 億元の約8割、赤十字以外の寄付金を含めた総額でも、日本の寄付は約6割を占めたという。

これには情に篤い台湾から過分なお返しがあった。

台中日本人学校はこの大地震で校舎が甚大な被害を受け、近隣の幼稚園を借りて授業をする事態に陥った。10月7日に同校を訪れた李登輝総統は、校長が土地探しに悩んでいることを知り、翌朝には大雅区の候補地が示され、斯くて新校舎は再建された(拙稿「ここにも日台の絆」)。

東日本大震災でも、200億円を超える義援金などの絶大な支援を台湾から頂戴したことは記憶に新しい。この21年3月11日、蔡総統は「十年が経ちましたが、その間日台一緒に様々な困難を乗り越え、その絆はますます強まっていると思います」とツイートした。

「強震警報システム」の警報からあちこち話が飛んだが、結論として、台湾の「国家防災の日」の訓練内容を知るにつけ、日本の「防災の日」の訓練とは異なる「国防」の要素がそこに取り入れられていると知れる。だから「国家」を冠しているのかも知れぬ。

日台が共に「防災の日」を制定し、それが同じ9月なのは偶然でない。一義的には9月に大地震が起きたことだが、その時期に発生する台風の通り道にある上、プレートの衝突で地震が多いという自然要件と、隣国が独裁国家であるという人工要件が共通するからだ。

災害対策基本法が謳うとおり「防災」の要諦は「災害を未然に防止」することだ。「国防」に譬えれば、攻撃を「未然に防止」する「抑止力」-自らの軍事力と同盟関係(日米韓やクアッド)-の強化に加え、「いざ」に備える国民の「心構え」が肝心ということ。

台湾の武力統一を口にして憚らない、海峡120余kmを挟んだ独裁国家から引っ越せない台湾は、自然災害のみならず、不法な人工災害への備えも疎かにできない。道理で「警報」の声にも切迫感があった。日本の置かれた状況も、実は大差がない。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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