岸田首相がニューヨーク訪問時に説明した資産運用特区が話題となっています。英語で業務が完結する、というのがウリのようです。掛け声を評価する向きもありますが、個人的には少子化対策で保育園の拡充をした政策と似たセンスに聞こえます。つまり、本質的ではなく、側面支援に過ぎないのだと。少子化対策の本質は若者に子供が欲しくなる気持ちにさせることであるように、マネーとのお付き合いとは日本で投資したくなる魅力がなければマネーの腰は座らない、これが私が中学2年生から株式市場と向き合ってきた答えです。

米国訪問中の岸田首相 首相官邸HPより
もしもとても儲かる話があるとしましょう。儲け話は独り占めしたいから誰にも言わず、そっとそこにお金を入れ、時が来るのを待つ、これが投資の成功者のパターンです。例えば未上場株を持ち、将来、上場した時に膨大な利益を得ているソフトバンクGの立場はその典型です。「人の行く 裏に道あり 花の山」なんて格言はもう忘れ去られたのでしょうか?
政府レベルで日本に投資を促す話は時々、あります。岸田氏は首相になってロンドンで同様のスピーチをしています。ほとんど反応はなかったと思います。現在の日本の株高はコロナ明けと東証改革、その際のPBR1倍に満たない企業株価に対するコメント、更にバフェット効果などの組み合わせが主因でそこに政府は絡んでいません。つまりマネーは独自の判断で儲かるところに流れてくる、それが「自然の摂理」ならぬ「マネーの道理」であります。
「海外の金融人材を受け入れ、アジア、さらには世界の国際金融センターを目指します。そのための税制、行政サービスの英語対応、在留資格の緩和について早急に検討を進めます」。この発言は岸田首相の今回の発言内容かと思わせますが、実は2020年10月に菅元首相が所信表明演説で述べたものです。その時点で行政サービスの英語対応なんていうことをちゃんと表明しているのに3年経った今、全く何も起きていないのです。言うのは簡単、実行は困難の典型的ケースなのです。
国際金融センターを目指すと東京、大阪、福岡が表明しています。これも特段練りに練って生まれた話というより政治家の感覚論が主体で福岡がそれに加わっているのは麻生氏のチカラのよるものです。東京に関しては昔から国際金融都市を目指すと言い続け、小池百合子氏も着任早々からそれを引き継ぎ、実際に地味な活動は行っています。ですが、国際金融都市としての日本のランクは23年6月に発表された英国シンクタンクの調査で世界21位。かつては5位だったのに20年代に入ってからのランクの急落は目を覆うような状態で政府の掛け声とはむしろ、地盤低下が著しい金融国家の位置づけに鞭を打つ、そんな悲壮感すらあるのです。
では今回の岸田氏の資産運用特区は何が違うのでしょうか?限られた情報から感じ取るのは「国際金融都市なんてもう目指さないぞ。それよりも日本人が持つ資産2000兆円の運用をアメリカのプロフェッショナルと一緒にやろうではないか?アメリカのプロたちよ、日本にきて家計の門戸をこじ開けてくれ!」。こんな感じではないかと思います。
これが正しければ極めて大きな方向転換です。国際金融都市の機能はマネーのフローの機能を持たせることです。世界でうごめくマネーを国際金融都市経由で運用する、という意味です。それに対して今回の岸田氏の資産運用特区はあくまでも日本人が持つ資産の「運用」であり、「ストック(資産)運用の組み換え」でしかないのです。これは持たせる機能が全然違ってきます。