瑕疵を認めさせることと管理組合での意見調整
建て替えまでにはいくつか大きなハードルがあった。まずJR九州などの施工・販売会社に瑕疵を認めさせること、そして、管理組合のなかで建て替えの承認を得ることだった。一般的に、分譲マンションは区分所有者の意見調整が難しい。瑕疵を認めさせる決め手となったのは日本建築検査研究所の調査レポートだが、そうしたボーリング調査費用にも数百万円がかかる。大規模改修の積立金から支出することになるが、もし結果が出なかったときは無駄になるかもしれないからだ。
建て替えの決定をする際も、実は傾いた六番館の住民の賛成5分の4だけでなく、他の棟を含めたマンション全体で4分の3の承認も必要だったという。他の棟の住民が「うちには関係ない」と考えたとしても不思議ではない。
3つ目のハードルとして時効の問題もあった。欠陥に対する損害賠償請求には期限がある。不法行為に基づく損害賠償請求権には除斥期間があり、20年と定められている。つまり、20年経つと損賠請求できなくなってしまうのだ。さらに住宅の瑕疵については、瑕疵担保責任を追及することができるが、責任の存続期間は、鉄筋コンクリートの建物では引き渡しから10年だ。販売元が長年にわたって、頑なに瑕疵を認めなかった理由はここにある。引き渡しから一定期間が過ぎれば法的には責任追及されないのだ。