もっとも、法は整備されても、抜け穴が設けられ、効力が薄められることがある。たとえば、アメリカの全州のうち、12の州では加害者が配偶者の場合には例外規定が設けられ、一般の加害者よりも処遇の軽減が図られている(World Population Review, “Marital Rape States, updated April 2023)。

配偶者間レイプの被害者は大抵が妻、そこには妻を夫の所有物のように扱う男性優位が透けて見える。女性をモノ扱い?まさか!と思うかもしれないが、イギリスではビクトリア朝時代の「躾のために妻を棒で叩く権利を夫に与える」法律がナント1976年のDV法導入まで執行されていたのである(Centre for Women’s Justice “Time Line of Key Legal Developments”)。女性を男性の従属物と定義するのは、イギリスに限らず、キリスト教世界の伝統的な観念であった。

殺人、傷害、強盗、窃盗、詐欺など刑事法が網羅する行為の違法性は広く社会で認知されている。こうした行為を犯す者も、見つかれば罪に問われることは理解しているはずだ。しかし、配偶者間の不同意性交やセクハラの違法性は十分には認知されていない。

たとえば、2018年にイギリス国内4,000人を対象に実施された調査によると、回答者の24%が「配偶者間の強制性交はレイプではない」、また33%が「強制性交であっても、身体的な暴力を伴わなければレイプに当たらない」と考えていた(End Violence against Women, “Major New YouGov survey for EVAW, Dec. 06, 2018)。

認知が進まない要因には、法が整備されて間もないこともある。だが、根本には人びとのジェンダー意識の遅れ、すなわち男性優位主義の観念が依然幅を利かせていることがある。

この観念が厄介なのは、女性の意識や行動をも支配し、男性から理不尽に手酷い扱いを受けても、それを仕方ないこと、我慢すべきことだと女性の判断を鈍らせてしまうからである。仮に理不尽さを認識しても、周囲から否定されたり、「なかったこと」にするように説得されたりすることも間々ある。男性優位社会では、問題を騒ぎ立てるよりも、沈黙し、無意識を保つほうが楽なのである。

ジェンダー平等は、女性(性的マイノリティや障害者も)の感性を歪める男性優位主義を一掃し、かれらがどんな些細な事柄でも自分の身に起こった性犯罪や性的不法行為を見逃さず、正しく認識する基盤なのである。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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