会談は40分間余り続いた。ゼレンスキー氏は会談の中で、教皇にロシアのウクライナへの軍事侵略を明確に非難するように求め、「被害者と侵略者の間には平等はあり得ない」と強調したという。フランシスコ教皇は調停役を演じるためにはキーウとモスクワの間で「中立的な立場」を維持することが前提条件と考えているからだ。

ゼレンスキー大統領はフランシスコ教皇との会談後、テレビとのインタビューの中で、「ウクライナには調停者は必要ない」と明言している(「ゼレンスキー氏『教皇の調停は不必要』」2023年5月15日参考)。

一方、中国外務省は今年2月24日、ウェブサイトで12項目の和平案を発表し、両国に紛争の「政治的解決」を求めている。「ウクライナ危機への政治的解決のための中国の立場」とタイトルされた和平案では、「紛争当事者は国際人権を厳守し、民間人や民間施設への攻撃を回避しなければならない」と明記され、第1項目は「国家の主権を尊重:一般に認められている国際法と国連憲章は厳密に遵守されなければならない」と記述されている。

しかし、李暉特使は訪問先の欧州で、ウクライナ東部の占領地域をロシアに「譲渡」し、即時停戦を促すよう求めたという。駐モスクワ中国大使を務めたことがある李暉特使が提示した和平案はロシア軍の侵略を容認する内容であることが明らかになったばかりだ(「中国の和平案は『ウクライナ領土分割』」2023年5月28日参考)。

キーウのギリシャ・カトリック教会のスヴャトスラフ・シェフチュク大司教はローマで行った記者会見で、「ズッピ枢機卿の北京訪問に期待する。教皇は戦争に甘んじないこと、聖座と教皇が私たちの国で起きていることに無関心でないこと、そしてこの無意味な戦争を終結させるためにどんな可能性でも模索されていることが明らかになった」と評価している。ウクライナ人の大半は正教徒であり、人口の約6%がギリシャ・カトリック教会の信者だ。

いずれにしても、ズッピ特使はこれでウクライナ和平交渉に関係する国を一通り訪問した。同特使がウクライナ和平の可能性についてどのような感触を得たかは明らかではないが、ウクライナとロシア間は目下、ウクライナ軍の攻勢を受け、戦闘は激化の兆候が見られ、和平停戦の可能性は依然見えてこない。バチカンで外交の名手といわれるズッピ特使だが、フランシスコ教皇の願いに答えることは容易ではない状況だ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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