今年7月27日、日本の自民党と台湾の与党・民進党は、外交・防衛分野を担当する議員による日台与党間「2+2」会合を初めて日本で開催した。

(前回:日本は「戦う覚悟」を持てるのか)

台湾の与党・民進党の郭国文・立法委員(国会議員)が自民党本部を訪れ、軍事的圧力を強める中国を念頭に、台湾を取り巻く情勢を、人気アニメ「ドラえもん」の登場人物に例えてこう訴え、助けを求めた。

台湾の最近の情勢を見てみると、のび太と似ているような状況でドラえもんが必要です。日本は台湾のドラえもんだと思います。

その上で、「日本の助けが必要で、問題を解決して欲しいと常に望んでいる」「台湾も日本のドラえもんになりたい」と日本との協力強化に期待を寄せた。

台湾の有力議員が日本に期待を寄せてくれるのは、一国民としても、誇らしく、ありがたい。ただ、日本を「ドラえもん」にたとえてくださるお気持ちは嬉しいが、正直、リップサービスが過ぎるのではないかと思う。

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なるほど、たとえば海軍力や空軍力を、カタログ・ベースで比較すれば、そうした比喩が当てはまるかもしれない。では、防衛省関係者が「宇・サ・電」と略称で呼び、「新領域」とした「宇宙・サイバー・電磁波領域」では、どうか。

わかりやすい例はサイバー領域であろう。オードリー・タン大臣(デジタル担当)の活躍を引き合いに出すまでもなく、こうした領域における台湾政府の実力と実績は広く知られている。

ならば、日本政府はどうか。最近、発覚した実例を挙げよう。

今年8月7日、米紙「ワシントン・ポスト」が、複数の元米政府高官の証言をもとに、日本の防衛機密を扱うネットワークに中国軍のハッカーが侵入し、「深く、持続的にアクセスしていた」と報じた。

昨年秋、米国家安全保障局(NSA)が、中国軍による日本の防衛機密ネットワークへの侵入を探知。事態を重くみたポッティンジャー大統領副補佐官(国家安全保障担当)と、米サイバー軍司令官を兼務するナカソネNSA長官が訪日し、日本の防衛相と協議した。米側は「日本の近代史で最も大きな被害を与えるハッキングになった」と警告し、日本側は「不意を突かれた」状態だったという。

元米軍高官は中国のハッキングについて、同紙に「衝撃的なほどひどいものだった」と証言。複数の米当局者が、「日本側はこの問題がただ過ぎ去ることを望んでいた」と感じていたという。

また、米国は2021年秋、「中国による攻撃の深刻さと、日本政府の取り組みがあまり進んでいないことを裏付ける新たな情報」を得た。米サイバー軍はサイバー攻撃の捜査で日本に支援を申し出たが、日本側は消極的だったという。

同じく2023年8月には、日本政府の内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の電子メールシステムから、不正な通信が外部に発信され、個人情報を含むメールデータの一部が外部に流出した事案が発覚した(NISCが同月4日発表)。

昨年5月には、来日したデニス・ブレア元米国家情報長官が、日本のサイバー防衛を「マイナーリーグ」と酷評したことが記憶に新しい。

「マイナーリーグ」に「ドラえもん」はいない。やはり、「日本は台湾のドラえもん」というのは、いくら何でも、褒めすぎではないだろうか。

「クマと園芸の好きな人」と題されたラ・フォンテーヌの『寓話』(岩波文庫)は、こう結ぶ。

無知な友ほど危険なものはない。/賢明な敵のほうがずっとまし。

必ずしも寓話の教訓にとどまらない。じつは軍事の世界にも当てはまる。いや、むしろ、「友」と同盟や協定を結んで、「敵」と戦う軍事の世界にこそ、当てはまると言ってよい。さらに「無知」を「無力」と言い換えてもよかろう。

とくにサイバー領域では、最も脆弱な「友」が標的となる。日本という「当てにならない友ほど危険なものはない。中国という賢明な敵のほうがずっとまし」という皮肉にもなりかねない。

当たり前だが、現実の世界に、四次元ポケットから取り出せる「ひみつ道具」などない。

日本よ、「ドラえもん」になれ、というのは、むろん無理な注文である。ただ同時に、「どこでもドア」がない以上、日本国が置かれた地政学的な環境は今後も変わらない。「ドラえもん」になれ、とは言わないが、せめて、同盟国アメリカや台湾から、いざというときに、信頼される国でありたい。