総理を含む閣僚級は20人で、世襲は8人です。西村経産相は元自治相の娘婿ですから、西村氏を含めると、半数が世襲議員です。
議員が辞めると、後継者に子女を据えることが多い。21年の衆院選では、自民党の場合、当選者の約30%が世襲でした。ケネディ家、ブッシュ家のように、米国では著名な政治一族が存在します。それでも世襲は上下院議員の5%にすぎないようです。
世襲議員が再生産されていけば、30%という世襲比率はどこまでも上昇を続ける。若くして出馬し、労せずして当選回数を重ねれば、閣僚、首相への道が開けてくる。安倍氏、麻生氏は首相だった祖父の政治思想を色濃く受け継いでいる。これでは日本の保守政界が政治の新しい流れを作れない。
こうしたも根深い問題に新聞は触れない。朝日の社説は「女性議員の少ない現状を改める契機としなければならない」と書いても、小渕、自見、加藤、土屋氏のように、「親の後継者に指名されないと、なかなか当選できない」という指摘をなぜしないのでしょうか。
読売も日経の社説も世襲問題に触れていません。政治部記者が政治記事を書いていると、問題意識が芽生えてこない。国際的な観点(他国の政治制度との比較)、経済的な観点(役員を世襲で固めるような大企業はまず存在しない)など、比較政治論の視点が必要な時なのです。
朝日新聞の論説委員、記者が素通りした世襲問題について、外部の識者は「小渕氏の選対委員長の起用は、世襲議員という圧倒的に有利な条件を与えられてきた。女性の看板として頼るには限界がある」(高安早大教授)と、厳しく指摘しています。
日経は女性活躍のイベント、シンポジウムを腐るほど、企画し紙面に掲載しているのに、政界については無関心のようです。読売新聞には、世襲問題のコメントはどこにも見当たりませんでした。
時代から取り残されていく政界の影響を、経済が受けないはずはありません。日本経済の低迷は政治による方向違いの政策の乱造に起因すると、私は考えています。政界の構造改革に手を付けずに、金融財政に頼り続けていても、日本経済はよくならないと思います。
政治と官僚の関係に嫌気し、転職する有能な官僚は増えています。東大を卒業する学生は、優秀なほど、コンサルタント会社とかマネーファンドを志望するそうです。一方の政界(保守政界)は世襲議員の再生産に励み続ける。そんなことでは「新しい資本主義」は空回りするだけです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年9月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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