地下生活の厳しさ
計画的に作られた地下都市であれば快適に過ごせそうな気もしますが、一時的に地下に身を寄せるのと、そこを永遠の住まいとするのはまったくの別物でしょう。
多くの文化の場合、地下は死や終わりを象徴しています。狭くて換気が難しい場所での生活は、想像以上の厳しさがあるのからなのかもしれません。
『アンダーグラウンド:地下世界の人類史(Underground: A Human History of the Worlds Beneath Our Feet)』の著者、ウィル・ハント氏はLiveScience誌で「私たちの体は、生物学的にも生理学的にも地下での生活に適していない」と指摘しています。
太陽の光を受けない地下での長期生活は、人間の概日リズムを乱し、睡眠障害をはじめ、様々な健康問題を引き起こすことが考えられるでしょう。
さらに、地下には水害のリスクも潜んでいます。
アメリカ・ラスベガスに張り巡らされている地下トンネルは、雨水の排水を目的として作られたものですが、滅多に雨が降らない気候であることから、約1,500人のホームレスが住み着いています。しかし、突然の大雨が降った際には鉄砲水が発生し、多くの人々が命を失っているのです。
さらに地下建築には通常、地下の圧力に耐えられる頑丈な材料が必要とされます。また、掘削に取りかかる前には、大規模な地質調査も必要となってきます。
地下というその特殊な環境で生活するには、数々のリスクを伴うことを認識する必要がありそうです。
地上の活動に左右される地下の環境
地下生活の快適さは、地上の環境にも左右されそうです。現代の場合は、地下だからといって涼しく過ごしやすいとは限らないのかもしれません。
例として、アメリカ・シカゴの中心、シカゴループのビジネス地区を見てみましょう。
このエリアでは1950年代から、駐車場や地下鉄、地下室といった地下施設が次々と作られ、地上は高層ビルに覆われています。
こうした多くの施設が密集する地域では、地下の温暖化が問題となっているのです。

日本でも東京などの都市部で地下鉄を利用する人たちは気づいているかもしれませんが、地下だからといって低い温度が保たれるわけではありません。
放熱する設備が密集すれば、例え太陽などの影響を受けない地下であっても熱がどんどんこもっていくことになるのです。
都会では「地下の温暖化」が起きていると判明!建物が不安定になる危険も?
私たちは地下に適応できるのか
私たちが地下空間に適応していくためには何が必要でしょうか。
安全性はもちろん、快適な温度、自然光が入り風通しの良い環境、そして何より地上とのつながりを感じられる空間が求められるでしょう。
この理想を実現した例として、カナダに存在する世界最大の地下街「モントリオール地下街(通称:RÉSO)」が挙げられます。
総延長32kmもの長さを持つこの地下街は、オフィスや店舗、ホテル、学校、駅、バスターミナル、アリーナなどの様々な施設と繋がっており、地上との一体感を保っています。

しかし、今後も地球の気温が上昇し続けるのならば、地下の温度も上がり続ける可能性があり、ただ単に地下都市を作るだけでは、そこは快適な空間とはならないのかもしれません。
結局のところ、私たちには長期的な視点での持続可能な環境対策が不可欠なのかもしれません。
参考文献
Could Humans Live Underground to Survive Climate Change?
The silent impact of underground climate change on civil infrastructure