そもそも筆者の在籍先医療機関でも、マイナカードを保険証として提示されても、資格確認できずエラーになることが多い。私は直接担当ではないから体感だが、新患だと半数くらいはエラーになっている印象だ。これでは、保健医療機関の業務が成立しない。もちろん、保険証が使えないと全額自費になる患者さんは大迷惑だ。

マイナンバーにヒモ付けされた個人情報が他人の情報と一部でも誤って入れ違うと、医療では文字通り致命的になり得る。薬剤禁忌やアレルギー情報が誤っていれば、薬剤誤投与でのアナフィラキシーやショック死もあり得る。病歴や検査値が誤っていれば、白い巨塔で大前教授が検体をすり替えられ陥れられたように、診断治療や手術ミスさらに悪意の作為もあり得る。まさに致命的なのだ。

さらにセキュリティ面でも問題が大きい。マイナカードは2段階認証ではない、簡単なパスコードでの認証である。扱う個人情報の重要性を考えると、いまどき、ありえない。

カードを盗まれたり拾得されたら、類推あるいはマグレでも、認証突破し悪用されるリスクもあり得る。あるいは利用の場が広がればスキマー(カード情報読み取り装置。巧妙にわからないよう仕掛けられる)を設置されデジタル的にカードデータを盗み取られたり複製されるリスクもあり得る。銀行店内ATMにスキマー設置された例もある。セキュリティ思想が前世代的いや時代遅れなのだ。コワイ。

ならば普及しているICカードやQRコードを保険証に活用する方が、現実的かつ即効性がある。何を「カード化」でなしたいか、にもよるのだが。ICカードに病歴、検査値、処方、禁忌アレルギー情報を記録すれば、低コストで各医療機関で情報共有できる。

QRコードは4000字以上記録でき印刷読み取りが簡単なので、お年寄りには予約票代わりに印刷して渡すだけでアナログに使ってもらえる。まさに「免罪符」だ。実際一部の処方箋は内容をQRコードで付加しているものもある。ICカードもQRコードも、システム的にも市民のリテラシー的にも普及しているから、活用は容易い。これらで重複処方やポリファーマシーを減らせれば、本人はより健康になり国も本人も経済的負担が減る、良いことづくめだ。山ほど飲めない飲まない薬抱えて病気自慢したい心が不健康な老人でなければ。

ちなみに、老人が飲めない飲まない捨てられる薬は、年間1000億円弱と言われる。あるいは、簡単にできそうなICカード化を、なさせない何かダークな力でもあるというのか!?

国、いや政権はマイナカードを普及させるために、日常的に使う保険証との一体化を急ぐのだろう。しかし急ぎ慌てるほどにシステムも事務も問題を生じるばかりだ。新しいシステムにはバクが、運用には問題が出て当然だ。それをきちんと解決せず強行突破で問題と不信の山を築くより、まずマイナカードシステムとその交付と運用事務をきちんと信頼性あるものにすべきだ。

マイナカードはなんのためなのか。手段と目的が入れ替わる過ちを冒してはいないか。マイナカードを国と国民のためにするためには、国家百年の計とまで言わずとも、急がば回れ、ではないか。拙速なマイナ保険証には、現場医療専門職として「KKnew, NOOOOO!!!!!」と声を大にしたい。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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