以上の理論がマルクス「資本論」の核心であり、極めて重要な「窮乏化法則」である。そして、「窮乏化」による労働者階級の反抗が社会主義革命を引き起こすのである注7)。
マルクス「窮乏化法則」の理論的破綻しかし、日本や欧米の発達した先進資本主義諸国では、労働者の名目賃金は不断に上昇しており、資本主義の発達による労働者階級の「窮乏化」は起こらず、むしろ生活水準は向上している。マイホーム、マイカー、電化製品を持ち、家族と海外旅行へ行く労働者も少なくない。そのうえに、各種社会保険や年金など社会保障制度が整備され、社会保障関連予算は国家予算の3割前後にも達しているのが日本など先進資本主義諸国の実態である。
そのため、さすがに評論家蔵原惟人元日本共産党常任幹部会員もすでに1979年に「労働者自体が無一物の無産者という感じではない多数の層が成長し自動車も持っている。このような変化に共産党としても対応する必要がある。」と述べ注8)、労働者階級に「窮乏化」の事実がないこと、むしろ生活水準が向上している事実を率直に認めている。
そうすると、「資本主義が発達すればするほど労働者階級は窮乏化する」という、マルクス「資本論」の核心であり、極めて重要な「窮乏化法則」は、相対的過剰人口論を含め、理論的破綻と言わざるを得ず、日本など発達した先進資本主義諸国では、「資本論」はもはや有効な「社会主義革命理論」とは言えないのである。
マルクスが予言した「社会主義革命」が先進資本主義諸国では全く起こっていないのは、革命の担い手である労働者階級の「窮乏化」が起こらなかったからである。そして、いずれもその当時は遅れた後進資本主義国であったロシアや中国などで「社会主義革命」が成功したのは、ひとえに、革命の担い手である労働者や農民が貧しかったこと、議会制民主主義が未発達であったからに他ならないのである。
日本共産党をはじめ、フランス、イタリアなど西欧共産党の著しい党勢退潮も、マルクス「窮乏化法則」に反して、先進資本主義国では労働者階級の窮乏化が起こらず、生活水準が向上した事実が最大の原因であると言えよう。そうだとすれば、日本共産党が党綱領五で主張する「先進国革命」は極めて困難と言えよう。
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注1)向坂逸郎訳「資本論」第一巻訳者まえがき昭和46年岩波書店刊。 注2)「資本論」第一巻639頁。 注3)ソ同盟科学院経済学研究所著「経済学教科書」第一分冊185頁1955年合同出版社刊。 注4)「資本論」第一巻808頁以下。 注5)「経済学教科書」第一分冊244頁。 注6)レーニン著「資本主義社会における貧困化」レーニン全集18巻466頁1956年大月書店刊。 注7)「資本論」第一巻951~952頁。 注8)蔵原惟人著「蔵原惟人評論集」9巻187頁1979年新日本出版社刊。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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