中型動物を相手に武器が進化し始める
研究チームは今回、大型動物が姿を消し、ネアンデルタール人やホモ・サピエンスが出現し始めた約30万年前の遺跡を調べました。
主な調査地は南アフリカ、東アフリカ、スペイン、フランスで、遺跡からは人類が狩りに使った武器や仕留めた獲物の骨が回収されています。
この頃になると、それ以前の木製の槍や棍棒に代わって石の槍が出現し始めました。
特に人類の中で流行したのは「ルヴァロワ技法(Levallois technique)」と呼ばれる石器製法です。
この技法では、手頃な石の表面をくり抜くように加工して、そこから鋭利な破片を剥離させます。
すると刀の先端に似たような鋭い石片が得られるのです。
これはただ石を割っただけの打製石器などより遥かに鋭く、殺傷能力の高いものでした。
またルヴァロワ技法は、単純な石器に比べて工程が複雑であり、最終的な完成図を先に想像しておく必要もあるため、高度な認知能力を必要としました。
これを木の棒の先に取り付けたものが「石の槍」です。
鋭利な石の槍が必要になった理由は、狩りのターゲットが中型動物に変わったことにあります。
ここでの中型動物は主にオオジカ、ガゼル、バイソンを指しますが、彼らは大型動物に比べてスピードに優れ、移動範囲も遥かに広いです。
棍棒で叩こうにも追いつけませんし、木の槍を投げつけても傷が浅くては逃げられてしまいます。
そこで狩りの殺傷力を上げるために、ルヴァロワ技法で作られた石器が使われ始めたのです。
石の槍は突きと投げの両方に使用され、もし一撃で仕留められなかったとしても、棍棒や木の槍より傷が深く、中型動物の逃げるスピードや範囲を狭めることに成功したと考えられています。
実際、今回の遺跡調査では、石の槍が見つかったところではすべて、仕留めた獲物の大部分を中型動物の骨が占めていました。
ところが一難去ってまた一難。
今度は中型動物が乱獲によって数を減少させ始めたのです。
そうなると人類はより小さな小鹿やウサギ、鳥などを獲物とせざるを得なくなりました。
そこで次に使用されるようになったのが、弓矢や投げ槍、さらには家畜化された犬などです。
獲物の小型化により「頭も賢くなった」
研究によると、約2万5000〜5万年前の間に、石の槍より複雑で高度な狩猟道具が使われ始めたことが明らかになっています。
なぜなら人類が次に相手にする小型動物は、中型動物よりもさらに警戒心が強く、小回りが利いて、移動能力にも長けていたからです。
特に強い警戒心のせいで、石の槍で突き刺せる距離まで近づくことすらままなりませんでした。
そこで人類は弓矢や投げ専用の槍といった長距離から攻撃できる武器を発明します。
それだけでなく、家畜化された犬を用いた狩猟も始めました。
こうした武器の製作には高度な技術や科学的知識を必要とし、さらに猟犬には訓練をしなければなりません。
また人と猟犬が協力する戦術の考案なども必要となったでしょう。
このように獲物がどんどん小型化していくことが、図らずも「武器の進化」と「認知機能の向上」につながったのです。
また遺跡の調査では、先と同じように、弓矢や投げ槍がある場所では小型動物の骨が多くを占めることが判明しました。
チームが時代ごとの獲物のサイズ変化をまとめたところ、150万年前に人類が狩猟した動物の平均体重は3トンであったのに対し、2万年前には約25〜50キロにまで縮小していたとのことです。
以上の結果からチームは「有史以前の人類は、小型で素早い獲物を狩る必要性への適応として、技術的および認知的な進化を遂げたと結論できる」と述べています。
しかし皆さんはすでにお気づきかもしれませんが、小動物の狩りは非常な労力がかかるのに反し、得られるカロリーはちっぽけなものです。
このような狩猟は小動物の消失を待つまでもなく、持続的なものとはなりませんでした。
そうして人類は次に、自ら食糧を作り育てる「農業革命」の時代に突入していくのです。
参考文献
Small prey compelled prehistoric humans to produce appropriate hunting weapons and improve their cognitive abilities
Ancient humans in Israel once ate elephants. When tusks went bust, weapons improved
元論文
The Evolution of Paleolithic Hunting Weapons: A Response to Declining Prey Size