だが、アメリカは、既に大規模地震による甚大な被害が日本で発生したことを察知していた。例えば、「ニューヨーク・タイムズ」や「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」などは、日本のこの地震を大きく取り上げている。

「ニューヨーク・タイムズ」は、第1面に「中部日本で悲惨な地震」との見出しを掲げ、3面にわたって記事を掲載し、「1923年の大地震(関東大震災)よりも大きい」、「日本列島では激しい揺れと津波が起きたはず」と記述している。また、翌9日付けの記事には「日本政府は大きな軍需施設が被害地区に含まれていることを認めながらも、被害を少なく見せようとしている」とも記している。

その後も被害全容は公表されることはなく、「隠された大地震」と呼ばれている。正確な記録ではないが、この地震による被害は死者・行方不明約1,200人、負傷者約3,000人、全壊家屋約18,000戸、半壊家屋約36,600戸、流失・浸水家屋等約3,200戸、火災発生26ヵ所に及んだとされる。

さらに米軍による半田空襲と名古屋空襲によって壊滅的な打撃を受けた1ヵ月後の1945年1月13日午前3時38分、三河地震が追い打ちをかけた。

三河地震は、愛知県東部に発生したM6.8の内陸直下型地震で、被害は愛知県・三重県に集中していた。夜明け前に起きたため、多くの住民は就寝中で、倒壊した家屋の下敷きとなって多数の犠牲者が出た。死者は約2,300人、負傷者約3,900人、家屋全壊約7,300戸とされている。

30年以内の発生が予想される南海トラフ巨大地震

専門家の間では、「現時点で最も起きる可能性が高いのは南海トラフ巨大地震で、M8、9の大地震が今後30年間のうち70%程度の確率で起こる」と言われている。

この南海トラフ巨大地震は東海地震・東南海地震・南海地震が連動して起きると考えられており、ひとたび起きれば宮崎から静岡まで短時間で広範囲に津波が押し寄せ、高知県では最悪34メートルの津波が襲来すると想定されている。さらに地域によっては東日本大震災よりも激しく揺れる地域が多くなると言われている。

歴史を紐解けば、1707年10月に起きた南海トラフ巨大地震だった「宝永地震」では、発生の49日後、富士山までもが噴火している。富士山から約95km離れた江戸には約2時間後に火山灰が降り注いだ。

火山灰はガラス質の細かい粉で、吸い込めば肺炎のリスクが高まり、重大な健康被害を引き起こす可能性がある。また現代の東京では、飛行機や車のエンジンの故障を引き起こすほか、交通網、送電網、通信設備、電波通信などに影響を与え、社会が大混乱に陥るのは、ほぼ間違いない。

日本は、太平洋戦争の惨禍の中においても、地震の災厄を避けることはできなかった。そして劣勢だった戦争の挽回を図ろうとしていた日本の軍事工業力に立ち直れないほどの打撃を与えた。

今、我が国は、失われた30年を取り戻すとして、政府の肝いりで半導体、AI、ドローン、量子技術などに数兆円規模の投資を行って活性化を図ろうとしている。だが、現在、予想されている南海トラフ巨大地震は、失われた30年どころか日本を絶望の淵に追い込むことにもなりかねないのだ。

政府は、現在、南海トラフ地震のみならず、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、首都直下地震などの地震災害に備え、津波からの防護、円滑な避難の確保及び迅速な救助、防災訓練などを中心とした地震対策を推進している。

あまり一般的には知られていないが、全国各地に設置された「道の駅」は、「防災道の駅」とも言われ、避難場所の提供、緊急情報の発信場所などとして使われている。実際に東日本大震災、熊本地震などでは多くの避難者を受け入れた。こうした対策が今後、一層、充実し、国民生活に浸透していくことを大いに期待してやまない。

藤谷 昌敏 1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。

編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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