ショルツ首相の演説は新しい政策を提示するのではなく、精神論が中心だ。なぜならば、対策自体、既にテーブルに乗せられているからだ。問題はそれを如何に成功裏に実行するかだ。ショルツ首相はそのために、政治家、指導者の考え方のチェンジを求め、対決ではなく、一体化というわけだ。逆にいえば、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FPD)という政治信条も政策も180度異なる3党の連立政権の行政能力は困難に瀕しているといえるわけだ。その意味で、オットー記者のショルツ首相の演説分析は正鵠を射ている。
英国の週刊誌エコノミストはドイツの国民経済の現状を分析し、「ドイツは欧州の病人だ」と診断を下したが、ドイツの国民経済は過去3期の四半期の経済成長はいずれもマイナス成長だった。経済統計上、ドイツはリセッション(景気の後退)に陥っているといえるわけだ。
ドイツ国民経済は今年第1四半期の成長率がマイナス0.1%だった。前年第4四半期の成長率マイナス0.4%だったので、連続2期でマイナス成長を記録した。そして今年第2四半期の成長率は前期比でマイナス0.2%だったのだ。
エコノミスト誌の報道を受け、ドイツの週刊誌フォークスは8月25日付のオンライン版で、「ドイツは再びヨーロッパの病人か」という見出しで報じていた。フォークス誌によると、多くの経済学者は現在、今年の経済成長率はマイナスに陥ると予測し、「欧州最大の経済大国ドイツの国民経済は停滞と景気後退の狭間にある」と指摘している。
昨年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、ロシア産天然ガスの輸入に依存してきた欧州諸国、その中でも70%以上がロシア産エネルギーに依存してきたドイツの産業界は再生可能なエネルギーへの転換を強いられるなど大きな試練に直面している。ショルツ政権が推進するグリーン政策に伴うコストアップと競争力の低下は無視できない。そして外国からの需要は低迷し、商品とサービスの輸出は前四半期比で1・1%減少し、輸入も停滞している。ドイツの産業界は専門職の労働力不足で生産性にも影響が出てきている。高いインフレ率とそれに伴う国民の消費・購買力の低下、失業率と労働市場の悪化がみられる。
ドイツ民間ニュース専門局ntvは6日、「メイド・イン・ジャーマニー(Made in Germany)はもはや廃れてしまったのか」というテーマで経済界の要人たちに聞いていた。ドイツは日本と同様、輸出国だが、世界経済の低迷、特に、中国経済の低成長もあって、外国貿易が不振だ。
ドイツは久しく輸出大国として君臨してきた。その頂点には「メイド・イン・ジャーマニー」の表示が品質を証明するものとして受け取られてきたが、その呼称が輝きを失ってきているというのだ。
参考までに、欧州最大の自動車展示会「ミュンヘンIAAモビリティ」が4日から開催中だが、世界のトップメーカーが最新の電気自動車(EV)を展示していた。ドイツの自動車ジャーナリストは、「自動車メーカーは新しい時代に入ろうとしている。展示場では中国のEV大手、BYDが新たな2車種を展示し、欧州のEV市場に本格的に進出してきた。EVの最新の技術ではアジア系メーカーが目立つ」と述べていた。具体的には、充電時間の短縮、航続距離の延長、そして価格争いでメイド・イン・ジャーマニーのEVは激しい競争にさらされている、というのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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