インターネット上で眼帯の写真が人気を呼んでいることに気分を良くしたのか、首相広報官によると、「ショルツ首相は今週の日程は全て予定通りこなす」というのだ。眼帯姿の自分を売り出すわけだ。

ショルツ首相は65歳で外貌は頭髪は無く、身長は170センチとドイツ人としては低い。会議で欧米諸国の首脳たちと並ぶと、フランスのマクロン大統領と共に背が低い。国内でもハベック経済相やリンドナー財務相など長身で見映えのいい政治家と並ぶとちょっと見劣りする。その首相がジョギング中、転び、眼帯をしてから俄然と人気が上がってきた。不幸中の幸い、というべきだろうか。

普段は嫌な質問をして困らせたいと考えている記者たちも、眼帯姿で笑顔を見せるショルツ首相を見ると、同じように笑顔を返し、「首相、眼帯が似合いますね」といった冗談の一つでも飛ばしたくなるのだ。

「ミームの波」といえば、トランプ前大統領が8月24日、ジョージア州アトランタの拘置所に出頭し、被告人として写真を撮影されたが、米大統領経験者の初の拘置所での写真というニュースが報じられると、その数日後、厳しい目つきをしたトランプ氏の写真はトランプファンの間で人気を呼び、写真をコピーしたTシャツや小物が大売り上げを記録。その一方、トランプ嫌いの人は牢獄のトランプに写真を変えて楽しむ。その結果、トランプ氏は巨額の収入を得て大統領選の費用を稼いだという。ネガティブをポジテイブに変える才能を有するトランプ氏らしい。いずれにしても、被告人トランプ氏の写真は“ミームの波”に乗って広がっていったわけだ。

参考までに、ショルツ首相関係者によると、右目周辺の傷跡はまだ痛むという。一方、トランプ氏は近い将来、裁判で自身の是非が問われることになる。両者とも本来は笑いごとではないのだ。にもかかわらず、インターネット世界に出回った写真は笑いと共感を広げている。ミームの波が起きることで、そのコンテンツや情報はその濃度を変えていき、いつの間にか事件の核心を忘れさせていく。この現象を“ミームの汚染”と呼ぶという。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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