税収上振れ局面で求められる財政運営
以上の結果は、経済が長期停滞下で欠損法人割合が不安定な状況で高くなる税収弾性値(2.74程度)を前提とすると、緊縮財政を実施しても名目成長率が下がってしまうことで、税収が期待通り増えるとは限らないということを示している。つまり、経済成長と税収の関係を鶏と卵に例えれば、税収という卵を産む経済成長、すなわち鶏を減らすような緊縮財政を過度に行えば、却って財政健全化は遠のきかねないことになるといえよう。
今後の青写真としては、日本経済が早期に正常化して、純粋財政アプローチによる政府債務の縮小を重視した財政運営に移行できるのがベストだろう。しかし、現時点の日本経済は長期停滞から完全に脱しておらず、金融政策によって生産活動を潜在水準に維持できるような状況になっていない。よって、財政運営もマクロ経済の安定化が重視される機能的財政アプローチが望ましいといえよう。特に近年のように40年ぶりの世界的なインフレ等により、民間部門から政府部門への行き過ぎた所得移転が生じやすい局面では、効果的な経済対策が必要と考えられる。
具体的なメニューとしては、物価高対策の延長がマストだが、給付金や補助金については需要喚起の効果が出現しにくい側面もあるため、給付金や補助金のみに頼るのは危険である。効果的と考えられるのは支出に伴う減税である。短期で需要を出すため時限措置的、もしくは減税率を段階的に縮小していくような措置を行えば、前倒しで需要が出現して長期停滞からの脱却にも効果的と考えられる。
また、岸田政権下では防衛費増額や少子化対策のために、その財源確保が必要となっている。しかし、特に少子化対策といった人的資本への投資を通じて将来の担税力が拡大することになれば、それによって債務返済財源も担保されることになる。となれば、特例法の制定を経ずに発行が認められる建設国債のような「こども国債」発行なども検討に値しよう。さらに、長期停滞からの脱却を確実なものとするために、来年の春闘も重要である。政府による更なる春闘への働きかけや企業の賃上げに対するインセンティブを誘発させる政策も必要になってくるだろう。
結局、今回の失われた30年からの脱却の芽を開花までつなげることができれば、政府債務の縮小を重視した純粋財政アプローチも実施しやすくなるが、逆に失敗してしまうと失われた30年からの本格的な脱却は困難になろう。そういう意味でも、税収上振れ局面での財政運営は非常に慎重な景気への配慮が必要ではないかと考えられる。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)
提供元・Business Journal
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