セブン&アイ・ホールディングス(HD)による大手百貨店そごう・西武の米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループへの売却に反対するため、そごう・西武労働組合は先月31日、ストライキを実施し、主力の西武池袋本店が全館休業となった。ストによって顧客のみならず入居テナントや納入業者など広い範囲に影響がおよび、さらに休業によって池袋駅の東口方面と西口方面を直線的につなぐ通路が使用できなくなることで多くの人が迂回を余儀なくされ、労組の判断に理解が広まっているとはいいがたい。今回のストをどう評価すべきか。また、全店舗面積の半分ほどを大手家電量販店ヨドバシカメラが占めるという西武池袋の改装案をめぐっても混乱が続いているが、フォートレスが経営権を握ったことで、この問題はどのような決着をみるのか。専門家に聞いた。
そごう、西武百貨店を展開するミレニアムリテイリング(現そごう・西武)をセブン&アイHDが買収したのは、2006年のことだった。
「コンビニエンスストアのセブン-イレブンと総合スーパーのイトーヨーカドーで成功を収めたセブン&アイHDの鈴木敏文会長(当時)にとって、百貨店を手に入れて総合小売り企業の地位を手に入れることは悲願だった。しかし、そごう・西武は赤字体質を抜け出せず、目立ったグループ内での相乗効果が発揮されることもなく、失敗に終わった」(小売り業界関係者)
また、流通ジャーナリストの西川立一氏はいう。
「同業の三越伊勢丹HDは24年3月期に過去最高益を見込み、高島屋も今年3-5月期で同期としては過去最高益となるなど好調な一方、そごう・西武は23年2月期まで4期連続の赤字。低迷の原因は『店舗に魅力がない』ということに尽きるが、競合他社と比べて、店舗力向上のための改革が不十分だったということ。赤字続きで、かつ親会社であるセブン&アイHDとの関係もうまくいっていないなかで、新たな投資や店舗力向上のための大胆な取り組みを行っていくというのは難しい」
何の実効性も伴わないスト
セブン&アイHDは当初、今年2月にそごう・西武をフォートレスに売却予定だったが、雇用維持の不透明さを訴え反対する労組や西武池袋の改装案への地元からの反発などを考慮して、売却を延期していた。労組は先月28日、9月1日に予定されていたセブン&アイHDによるそごう・西武の売却を中止することを求めてストを通知。セブン&アイHDがこれを退けたため労組は先月31日に予告通りストを実施したが、セブン&アイHDは同日の取締役会で売却を決議した。
「経営サイドと労組が激しく対立しているかのようにみえるが、セブン&アイHDとしては株主や市場からの圧力もあり、不採算事業であるそごう・西武を売却しないという選択肢はあり得ないが、豊島区や労組の反対があるなかで売却を強行すれば批判を浴びかねず、歩み寄りの姿勢を見せる意味でも協議に応じ、買収延期というかたちを取った。一方の労組も、雇用維持に不安を持つ組合員の手前上、反対の姿勢を崩すわけにもいかず、一見強硬策にみえるストという手段を取ったが、売却は既定路線であり、ストが何の実効性も伴わないことは明白」(全国紙記者)
今回の労組によるストを、どう評価するか。百貨店のスト・全館休業が行われると、具体的にどのような影響が生じるのか。流通ジャーナリストの西川立一氏はいう。
「日本企業では労使協調路線が色濃く、小売り業は世間的なイメージの良さが重要なこともあり、小売り業ではストは少なかった。そごう・西武労組は百貨店事業の継続や雇用維持を求めてスト権を確立したわけだが、経営陣に主張を訴えるには、それしか残された手段がなかったということだろう。
組合員はスト中の給与は支払われないものの組合から補填されるが、入居するテナントや納入業者は売上が減るという不利益を被る可能性があり、関係先への影響は小さくない」(西川氏)