2023年10月に運用が始まるインボイス(適格請求書)制度をめぐって、7月、一部の事業者に<「インボイス制度」に関する重要なお知らせ>と宛名の下に書かれた二つ折りハガキが届いた。送り主は一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)である。ハガキを開くと<「免税事業者」を継続されるか、「課税事業者」になられるかを任意にご選択ください>と書かれてある。

 このJASRACの通知には、免税業者に対して<2023年12月分配より分配料から消費税額分を実費として償還(差引き)してお支払いします。ただし、最初の6年間は、経過措置として以下の割合の消費税額分を含めて分配使用料をお支払いします>として、23年12月~2026年9月は80%分、26年12月~29年9月は50%分、29年12月以降は<消費税額分を含めずにお支払い>と記載されているのだ。

 公正取引委員会は<それ、独占禁止法又は下請法違反です!>というタイトルで、次のように勧告している。

<発注者(買手)が下請事業者に対して、免税事業者であることを理由にして、消費税相当額の一部又は全部を支払わない行為は、下請法第4条第1項第3号で規定されている「下請代金の減額」として問題になります>

 たとえば、日本たばこ産業(JT)が課税事業者に移行せず免税事業者を継続する葉タバコ農家に、一方的に取引価格の引き下げを通告していたことが判明し、公取委が独占禁止法に違反する恐れがあるとしてJTに注意するという事例も発生している。

 この公取委の勧告と照らし合わせて、JASRACの通知内容は<消費税相当額の一部又は全部を支払わない行為>として法に抵触しないのだろうか。公正取引委員会商品取引課は当サイトの取材に対し、「インボイス制度に関わる通知内容について、個別のケースには言及しない」という前提で、あくまで一般論として次のようにいう。

「売り手と買い手が相談の上、双方が納得して、結果として消費税額分の一部または全部を支払わないことにしたのならば問題はない。一般論として買い手側の意向だけで消費税額分を支払わないのは法的に問題があるが、経過措置の消費税額分を支払わない行為(一部を支払わない行為)は、消費税額分の全額を支払わない行為に比べて悪質性は低い」

「下請法に抵触することはない」

 また、JASRACは次のようにいう。

「下請法に抵触することはないと考えている。その理由は、当協会から著作物使用料の分配を受ける著作権者と当協会との間の取引関係が下請法の適用対象となる取引関係ではないからだ」

 JASRACが挙げる下請法の適用対象となる取引関係は、

・製造委託
・修理委託
・情報成果物の作成委託
・役務提供委託

 この4つだが、JASRACから使用料の分配を受ける著作権者とJASRACとの取引関係は、信託法上の「信託」に該当するという。

「著作権者は、その有する音楽著作権を当協会に信託譲渡し、それによって取得した受益権に基づいて当協会から使用料の分配を受けている。このような『信託』の取引は、下請法が適用対象とする4つの業務委託のいずれにも該当しないため、下請法の適用を受けない」(JASRAC)

 インボイス制度では、買い手側の意向だけで消費税額分の支払いを決定するのではなく、売り手側からの相談に応じることが求められている。JASRACの通知には<ご不明な点などがございましたら、JASRACインボイス窓口へ、お気軽にご相談ください>とメールアドレスが案内されている。JASRACの意向だけで支払い方式を決めるのではないというメッセージだが、一般論として公取委はこう指摘する。

「アリバイとして相談に応じることを書くだけではなく、免税事業者から相談の申し込みがあれば形式的な協議ではなく真摯に協議することが問われる」

 JASRACは「下請法の適用を受けないとしても、取引条件の一方的決定・一方的変更等を不当に行えば、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となる可能性があることを十分に理解している」として、独占禁止法コンプライアンスに詳しい弁護士や、公正取引委員会事務局に相談したうえで、次のような対応に取り組んでいるという。

「インボイス制度施行後の分配使用料のお支払いにおける消費税額分の取り扱いについて、 そのように取り扱う必要性や合理性を明確に示し、十分に説明をするということに尽きる と考えている。当協会では、委託者全員にお送りしている月刊の会報に 14 回にわたって特集記事を連載しており、会報とは別に専用の説明書面もお送りしたほか、説明会を開催し、メール・電話でのご質問対応も行っている」