〇人種・男女別の就業者、20年2月比

人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、引き続き黒人の男女とヒスパニック系の男女でプラスだった。しかし、今回は5カ月ぶりに白人男性がマイナス圏に転落した。マイナスは白人女性のみとなる。一方で、詳細をみると黒人の男女以外は全て増加ペースが減速した。黒人男性は前月の9.7%増→12.1%増と大幅増加したほか、黒人女性も前月の0.7%増→0.9%増となった。逆に、ヒスパニック系の男性就業者の伸びは前月の8.6%増→7.2%増、ヒスパニック系女性も前月の8.0%→7.4%増と、大幅に鈍化している。白人男性は前月の0.7%増→0.1%減と前述したように5カ月ぶりにマイナスに反転、唯一マイナスの白人女性は前月の2.4%減→2.2%減と下げ幅を小幅に縮小した。

チャート:男女・人種別の就業者数の20年2月との比較、ヒスパニック系は増加トレンドにブレーキ

nfp23aug_mwracee (作成:My Big Apple NY)

人種別の週当たり賃金は5月時点で以下の通りで、ヒスパニック系が762.8ドルと最低、次いで黒人が791.02ドル、白人は1,046.52ドルとなる。アジア系が最も高く1,169ドル。

チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い

nfp23aug_wagesdf (作成:My Big Apple NY)

〇人種別の労働参加率、失業率

人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。

人種別の労働参加率は、白人を除き全て低下(データは季節調整済み)。白人のみ前月まで4カ月連続の横ばいから上昇に転じた。一方で、黒人は年初来で最低に並んだほか、ヒスパニック系は4カ月ぶりの水準に低下し、アジア系も2010年4月以来の高水準だった前月を下回った。

・白人 62.5%と20年3月(62.6%)以来の水準へ上昇、前月まで4カ月連続で62.3% 2020年2月は63.2% ・黒人 62.6%と年初来で最低に並ぶ、前月は62.7%、3月は64.1%と2008年8月以来の高水準 ・ヒスパニック系 67.1%と4カ月ぶりの低水準、前月は67.4%と2020年2月以来の高水準、2020年2月は67.9% ・アジア系 65.6%、前月は65.7%と2010年4月以来の高水準、2020年2月は64.5% ・全米 62.8%と2020年2月(63.3%)以来の高水準、前月まで5カ月連続で62.6%

チャート:人種別の労働参加率、白人以外は軒並み低下

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人種・男性別では白人と黒人が上昇も、ヒスパニック系のみ著しく低下した。

・白人 70.3%と2022年10月以来の高水準に並ぶ、前月は70.2、2020年3月は71.0% ・黒人 68.4%と5カ月ぶりの高水準、前月は68.3%、3月は70.5%と2009年1月以来の高水準 ・ヒスパニック系 79.3%と4カ月ぶりの低水準、前月は79.9%と2020年6月以来の高水準(80.1%)、2020年2月は80.3%

チャート:人種・男性別では白人が低下も、黒人とヒスパニック系は上昇

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人種・女性別では、白人とヒスパニック系が上昇した半面、黒人のみ低下した。

・白人 58.0%と2020年2月以来の高水準(58.2%)、前月は57.7% ・黒人 62.7%と7カ月ぶりの低水準、前月は63.0%、3~4月は63.9%と2020年2月(63.9%)の水準に並ぶ ・ヒスパニック系 61.5%と6カ月ぶりの高水準、前月は61.1%、2020年2月は62.2%

チャート:人種・女性別は白人と黒人が著しく改善

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人種別の失業率は、黒人以外で全て上昇。労働参加率が上昇した白人のほか、男性の労働参加率が低下したヒスパニック系、アジア系がそろって失業率が上昇した。特にヒスパニック系は、2022年1月以来の水準へ上昇した。労働参加率が低下した黒人のみ、4カ月ぶりの水準へ低下した。

・白人 3.4%と2022年1月以来の高水準、前月は3.1%、2022年12月は3.0%と2020年2月(3.0%)に並ぶ ・黒人 5.3%と4カ月ぶりの水準へ低下、前月は5.8%、4月は4.7%と過去最低を更新 ・アジア系 3.1%、前月は2.3%と2019年6月以来の低水準 ・ヒスパニック系 4.9%と2022年1月以来の高水準、前月は4.4%、なお22年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準 ・全米 3.8%と2022年2月以来の水準へ上昇、前月は3.6%、4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来の低水準

チャート:人種別の失業率は労働参加率が低下した黒人以外、全て上昇

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人種・男女別では以下の通り。労働参加率が低下した黒人男性に加え労働参加率が上昇した黒人女性が低下したが、他は労働参加率の上下に関係なく上昇した(労働参加率はヒスパニック系男性で低下、白人の男女とヒスパニック系は上昇)。特に、白人の男性のほか、ヒスパニック系で失業率の上昇が0.3ポイント以上と目立った。

・白人男性3.4%と2021年10月以来の水準へ上昇、前月は3.0% ・白人女性 2.9%と3カ月ぶりの水準へ上昇、前月は2.7%、6月は2.6%で過去最低 ・黒人男性 5.0%と4カ月ぶりの低水準、前月は5.3%、4月は4.5%と過去最低 ・黒人女性 5.4%、前月は5.9%と2022年8月以来の高水準 ・ヒスパニック系男性 4.1%と5カ月ぶりの水準へ上昇、前月は3.5% ・ヒスパニック系女性 4.6%と5カ月ぶりの水準へ上昇、前月は4.3%

チャート:人種・男女別の失業率、黒人の男女以外は全て上昇

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白人と黒人の失業率格差は、2カ月連続で縮小。白人の失業率が上昇した一方で黒人が低下したため、失業率格差は1.9ポイントと、過去最低を記録した4月の1.6ポイントに次ぐ水準だった。

チャート:白人と黒人の失業率格差、2カ月連続で縮小

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〇学歴別の労働参加率、失業率

学歴別の労働参加率は、まちまち。大卒のみ上昇し、高卒は前月と変わらず、中卒は低下した。

・中卒 47.6%、前月は47.7%と5カ月ぶりの水準を回復、2月は48.3%と2008年3月(48.2%)を超え過去最高を更新 ・高卒 56.5%と前月と変わらず、6月は57.0%と2022年1月以来の水準を回復、2020年3月は57.1%、2020年2月は58.3% ・大卒以上 73.5%と2020年1月(73.7%)以来の高水準を維持、前月は73.4% ・全米 62.8%と2022年2月(63.3%)以来の水準へ上昇、7月まで5ヵ月連続で62.6%

学歴別の失業率は、そろって上昇。労働参加率が改善した大卒に加え、労働参加率が低下した中卒、横ばいだった高卒そろって弱含んだ。特に、大学院卒の失業率が2021年7月以来の高水準に。バイデン政権の肝煎りの学生ローン返済免除が米連邦最高裁判所で無効との判断を下されるなか、高額な学生ローン支払い負担を余儀なくされる大卒以上、特に大学院卒の失業率の悪化は懸念材料だ。

・中卒以下 5.4%、前月は5.2%と6ヵ月ぶりの低水準、2022年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低 ・高卒 3.8%、前月は3.4%と2019年4月以来の低水準 ・大卒 2.2%と2022年2月以来の高水準、前月は2.0%、2022年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ ・大学院卒以上 2.8%と2021年7月以来の高水準、前月は2.5%、2021年12月は1.3%と2000年4月以来の低水準 ・全米 3.8%、前月は3.5%、4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来で最低

チャート:失業率は大卒のみ低下、中卒と大学院卒は上昇、高卒は横ばい

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チャート:米景気減速が一因なのか、高賃金とされる大学院卒の失業率は労働参加率につれ上昇傾向

nfp2aug_urer (作成:My Big Apple NY)

--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。

①平均時給は前月比で2022年3月以降で最小の伸び、労働参加率の改善に合わせ鈍化。さらに、13業種中、6業種で前月比マイナスとなり7月の1業種から増加。賃上げ圧力の後退を確認。

②働き盛りとされる25~54歳の男性(25~54歳)をみると、白人の25~54歳以外は低下。特に黒人やヒスパニック系男性が押し下げたとみられ、25~34歳が弱い、ただし、年齢別では24歳以下と55歳以上の労働参加率が上昇しており、主に働き盛り世代以外が労働参加率の改善をもたらした。

③男女別の労働参加率と失業率は、そろって上昇。米8月雇用統計で不完全雇用率が急伸しフルタイムが減少したように、パートタイムの雇用が支えたためか、女性の失業率の上昇は小幅だったが、男性は前月比0.4ポイントの上げ幅となり、2022年1月以来の高水準だった。

④人種・男女別では、黒人以外で失業率が上昇。黒人男性が労働参加率の低下に合わせ失業率が著しく改善したほか、労働参加率が改善した黒人女性も失業率が低下した。しかし、黒人以外は失業率が上昇。白人、ヒスパニック系の失業率が上昇。特に労働参加率が4カ月ぶりの低水準だったにもかかわらず、ヒスパニック系男性は前月比0.6ポイントも急伸し、2022年1月以来の高水準だった。

⑤学歴別では、失業率がそろって上昇。特に、大卒以上の労働参加率が改善し続けるなか、大学院卒の失業率は2021年7月以来の水準へ上昇した。AI普及の影響か、高賃金職の雇用が減速している様子が見て取れる。

米8月雇用統計の家計調査では、前月に続きパートタイムが増加した一方で、フルタイムが減少していました。フルタイムの減少は、大学院卒の失業率上昇につながったと考えられます。足元の雇用増がパートタイムが主流であると同時に、けん引役が比較的、低賃金の職である実態を示唆しています。また、人種で見ると労働市場の減速の先行指標とされる黒人のみ、失業率が改善する不思議な結果となりました。低賃金職が増加したことが一因とも考えられますが、歪な労働市場の姿は、ブレイナードNEC委員長が米8月雇用統計後にCNBCのインタビューで「労働参加率の大幅改善は良好な経済を表す」と発言したほど、良好と言えそうにありません。

編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年9月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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