ウクライナ軍の「反転攻勢」が続いている。着実に成果を出しているように、私には見える。ただこの「反転攻勢」について識者の間では「遅い」という意見も多く、中には「失敗している」という言説もあった。

様々な制約の中で行われている作戦なので、あまりに非現実的な評価基準をあてはめることは適切ではないことは当然として、全体的な流れとしてはウクライナ軍がロシア軍を押し込んでいるわけなので、少なくとも「失敗している」とは言えないだろう。

ゼレンスキー大統領 facebookより

それでは「遅い」のか否か。全ては評価基準の設定にかかる。

どちらかが疲弊しすぎて戦争続行が不可能になる地点が判明している場合には、その時点までに目的を達成しなければならない。現在のところ、ウクライナとロシアの双方ともに戦争で疲弊はしているが、あと少しで崩壊するという状況ではない。数週間単位の時間を惜しみ、犠牲の増加を度外視して、戦果を焦る段階ではない。

もっともいたずらに無駄な時間を費やすことを、避けられるのであれば避けるべきであるのも当然である。消耗戦の継続は、相対的には、総合的国力を考えれば、ウクライナに不利である。

そもそもウクライナの善戦の背景には、欧米諸国による大々的な支援体制がある。したがってこの支援体制が疲弊してしぼんでいくかどうかが、反転攻勢が「遅い」かどうかの評価基準を規定する。

ウクライナ軍に最大規模の軍事・民生支援をしているのは、アメリカ合衆国である。NATO及びアジアの同盟体制の盟主であるアメリカの支援体制の継続は、ウクライナを支援している欧州・東アジアの同盟国の士気にも大きく関わる。国際支援体制の基盤は、アメリカの支援継続意思である。

日々の世論調査の結果で、アメリカの支援体制が左右されているかのように考える言説も見られる。だが政策決定者の発想は、そのようなものではない。重要なのは世論調査ではなく、選挙の結果である。アメリカでは2023年には選挙はなく、2024年秋に選挙がある。全ての政治日程は、2024年秋から逆算して、決められていく。

今のところ、次回の選挙では、引き続きバイデン民主党政権側が、ドナルド・トランプ氏を中心とするウクライナ支援懐疑派と激突する構図になる見込みが強い。大統領選挙はもちろん、議会選挙を通じても、ウクライナ支援の妥当性が争われることになる。ウクライナ支援とは、要するに、大統領選挙の結果を左右する(もちろん唯一ではないが)大きな政治議題の一つなのである。