前日に続いてオーストリアの極右問題に関連したコラムとなる。極右政党「自由党」(FPO)の青年団体がこのほど広告ビデオを作成してYouTubeに流したが、そのコンテンツはネオナチ的思想を賛美し、アドルフ・ヒトラーが1938年3月15日、オーストリアのドイツ併合(Anschluss)宣言を受け、凱旋演説をした通称「ヒトラーのバルコニー」などを映し出している。2分半の動画だ。

そのビデオの中には彼らが模範とする思想家、知識人が出てくるが、その中に日本の作家三島由紀夫の写真が登場していた。改めて、欧州の極右青年たちの間に三島由紀夫が人気があることが明らかになった(「ヒトラー・バルコニーからの『歴史』」2021年3月15日参考)。

セルナー氏のオンラインショップで売られる「三島由紀夫」のTシャツ

この動画は、大量移民、環境汚染、ジェンダー問題、文化の喪失、欧州のイスラム化、人口移動と交換などに対するFPO青年団の広告ビデオだ。その映像や文体は恣意的にナチス時代を想起するように演出されている。

オーストリア週刊誌プロフィール電子版(8月29日)は、「過激な環境保護グループ『最後の世代』は自分たちが環境を守る最後の世代という意識があるが、FPO青年グループは自身を『故郷と伝統』を守る最後の世代という思いが強い」と評している。極左も極右も一種の終末観に動かされている、というわけだ。

動画に登場する著名な右翼知識人、思想家たちは、例えば、フランスの「新右翼」知識人アラン・ド・ブノワ、スイス人の保守革命の思想史家アルミン・モーラー、ドイツ人の思想家エルンスト・ユンガ―などだ。そして三島由紀夫の写真が出てくるのだ。

オーストリア内務省の国家安全保障情報総局(DSN)は「ナチス禁止法」に違反する疑いで捜査に乗り出している。動画の内容はオーストリアの最大極右組織「イデンティテーレ運動」(IBO)の主張をコピーしたものだ。

IBOは2012年に設立、本部はオーストリア南部で同国第2の都市グラーツ、会員数は約300人と推定されている。反イスラム、難民、外国人排斥の主要な扇動グループで、活動キャッチフレーズは「欧州のイスラム化の阻止」だ。