当コラム欄ではドイツの極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)の躍進については何度か報道してきたが、隣国オーストリアでは同じ極右政党の「自由党」(FPO)が世論調査でトップを独走し、ここにきて30%の大台に支持率を伸ばし、第2位の社会民主党(SPO)の支持率を7%と大きく水をあけていることが明らかになった。

政府の物価対策を批判する自由党のキックル党首(2023年7月31日、FPO公式サイトから)
オーストリア日刊紙エステライヒが9月1日付けで報じた最新の世論調査(ラザルフェルド社、2000人を対象に7月27~30日の期間)によると、FPOが30%で断トツで、前回(7月上旬)の調査比で3ポイント上昇した。それを追ってSPOが23%、ネハンマー首相の率いる中道右派の与党国民党(OVP)が22%でFPOとSPO2党の後塵を拝している。国民党の連立パートナー「緑の党」は10%、リベラル派政党「ネオス」は9%となっている。
同世論調査からいえることは、ネハンマー連立政権は連立パートナーの「緑の党」と合わせても支持率32%の少数派政権に低迷し、キックル党首が率いるFPOは現在、連邦議会選挙が実施されれば、第1党はほぼ間違いないことだ。一方、今年6月に党首選を実施し、パメラ・レンディ=ヴァーグナー党首の後釜にバブラー新党首が選出されたSPOは物価・エネルギー高騰問題など国民の身近な問題に力を入れ、支持率を少し回復してきていることだ。
ネハンマー政権の発足直後、ウクライナ戦争が勃発し、エネルギー価格の高騰、物価急騰に直面し、国民経済は厳しくなっている。新型コロナウイルス感染で3年余りコロナ規制を余儀なくされた国民にはフラストレーションが溜まっている。そこに月10%を超えるインフレ率で国民の日常生活は益々苦しくなってきた。
ネハンマー首相の「国民党」とコグラー党首の「緑の党」の支持率が低下している理由ははっきりしている。「国民党」の場合、クルツ前政権時代の汚職、腐敗問題が表面化し、国民の信頼を失っている。一方、「緑の党」はこれまで政治家の腐敗問題の追及、クリーンな政治を看板にしてきたが、「国民党」との連立政権を重視するために野党時代のような批判はできなくなった。その結果、「緑の党」内でもコグラー党首の政権維持路線に批判的な声が聞かれる。
野党や国民の一部から早期解散、総選挙の実施を求める声が聞かれるが、ネハンマー首相もコグラー副首相(緑の党党首)も政策の相違があるものの、早期解散には躊躇している。現時点で総選挙が実施されれば、国民党も緑の党も得票率を落とすことは必至だからだ。だから、任期満了(2024年9月)近くまで政権を維持する一方、支持率トップを走る自由党の失点を待つ、といった立場だろう。