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民間にばかり要求する無責任

成長分野への円滑な労働力の移動などを促すための「学び直し(リスキリング)」を岸田政権は重要政策と位置づけ、5年間で1兆円を投入するという。衰退産業から成長産業への人材移動が必要なことは間違いない。

日経新聞が「リスキリングサミット2023」を開き、岸田首相、茂木自民党幹事長がメッセージを寄せています。二人の発言を聞いて、「学び直しは政治家にも求められていることを自覚していない」と失望しました。

日本経済が2、30年も停滞しているのは、適切な財政・金融政策を取らず、ポピュリズムの政策を連発してきた政治の責任も大きい。政治家の政策判断の間違い、政治倫理の軽視、政治家そのものの人的な劣化が目に余ります。

一般企業は様々な研修の機会を設けているのに、政治家にはそうした場がまずない。当選すれば、「みそぎを受けた」ことになり、問題があっても免罪になる、不問に付すという次元の世界です。政界版の「学び直し」を誰かが要求すべきです。

定年まで会社にしがみつかず、新しいスキル、知識を身に着け、転職や起業を試みていくことは必要です。日経(8月31日夕刊)の見出しは「首相『学び直し、官民挙げ』」とあり、「首相が掲げる『新しい資本主義』は人への投資が基盤になる」とも書いています。

見出しが「官民挙げ」なので、政治家自身もその気になっているのかと想像したら、民間企業にだけ学び直し(リスキリング)を求めています。私は「それは違うだろう。政治家自身の学び直しは必要だろう」と違和感を覚えました。政治家自身の刷新、政治の改革などは念頭にない。

日経は9月2日朝刊で「学び直し、問われる効果」という大きな解説記事を載せました。「リスキリングを成長につなげるために官民の緊密な連携も欠かせない」と指摘しています。

緊密な連携のためには、「民のリスキリング」も「政のリスキリング」が求められていることを指摘してほしかった。経済記事は経済記者、政治記事は政治記者という伝統的な役割区分から抜け出していません。メディア、特に政治ジャーナリズムのリスキリングも求めたい。

識者の談話もあり、「リスキリングは単なる研修の充実ではない。経済構造の大きな変革を伴う」(柳川範之・東大教授)とあります。政治家も基本的な研修(学び直し)から始め、政治構造の変革を目指してもらいたい。

政治家の劣化を示す事例はいくらでもあります。自民党所属の国会議員(4人)、地方議員(38人)がフランスに海外研修にでかけ、幼児教育の義務化、政治分野における女性活躍を学び、上下院の議員と意見交換しました。先進的な海外の事例を学ぶことは必要です。「観光旅行のようだった」などと、文句をつけてはいけません。息抜きの観光は許される。