世界中で生産されている数多のワインの中で、もっとも有名で華やかなイメージを纏っているのは、フランスのシャンパーニュだろう。

フランス北東部のシャンパーニュ地方で作られる発泡ワイン。シャンパーニュ、と一口に言っても、いくつかの地区に分かれていて、それぞれ土壌や適したブドウ品種が異なるなど個性がある。さらにもう一つ、この地方ならではの大きな区別がある。グランド・メゾン(grande maison)とヴィニュロン(vigneron)だ。

グランド・メゾンは”大きな館”の意味、つまり、「モエ・エ・シャンドン」などに代表される、大手メーカー。自社の葡萄畑も持つが、提携農家が栽培する葡萄も利用し、自社ブランドのシャンパーニュを造る。

ヴィニュロンは、”葡萄生産者”の意味。つまり、生産者自身がワイン作りから瓶詰め、販売までを行う。レコルタン・マニピュラン(recoltant manipulant)とも呼ばれ、作り手の個性とテロワール(気候風土)を強く感じるシャンパーニュが出来上がる。

マニアックな愛好家も多いヴィニュロンのシャンパーニュの中でも、際立った世界的名声を博しているのが、アンセルム・セロスが手がけるドメーヌ「ジャック・セロス」だ。

シャンパーニュ愛好家の多くが憧れる、「ジャック・セロス」

白葡萄シャルドネの名産地コート・デ・ブラン地区はアヴィーズ村にあるドメーヌ。1960年代からシャンパーニュ造りを始めた両親の元に、現当主アンセルムは70年代から参加した。90年代に入ると、農業生物学に基づいた葡萄栽培に舵を切り、96年からビオディナミ(天体の動きに連動した生体力学農法)を取り入れ、21世紀に入ると、自然と響き合う自分自身の哲学を打ち立て、葡萄栽培とワイン造りを行っている。彼が師と仰ぎその精神を取り入れたのは、自然農法の世界的第一人者、福岡正信だ。

シャンパーニュ地方に広がる葡萄畑