逃げる作戦の決勝レース
ポールからスタートした山内は逃げる作戦でホールショットを決める。1周目をトップで戻った山内は、なんと2番手に2秒以上の差をつけて戻ってきたのだ。まさに異常な速さだ。
2周目以降も山内はどんどんとリード広げ13周を終えたときに8秒520までリードを広げている。ストレート1本分以上のリードだ。が、予選で使用したタイヤの限界は近づき、15周したところでピットに滑り込んだ。

山内はWスティントを担当。ガソリンの給油とタイヤ交換を行ないピットアウトする。しかしコースに戻れば総合17番手。ピットインを1回済ませた中でも8位という順位だ。大きなリードは使い切り順位も下げる結果だ。
そこから山内の怒涛の追い上げが始まった。タイヤ交換を1回とするチームは予想よりも多く、ヨコハマタイヤ、ブリヂストンを履く数チームが1回交換を選択している。つまり、タイヤの摩耗は進みタイムは落ちてくる。山内は新品を履くからスピードがあり、落とした順位を猛烈に挽回していくというシナリオに変わっていく。

山内が再び首位に立つのは38周を終えた時だ。そこからまたしても逃げの作戦になるが、さすがに山内のタイヤにも限界が近づいている。39周目、2位88号車に7.820秒のリードをしていたが、突如ラップタイムが落ちる。40周目にリードは4.6秒になり、41周目には1.3秒までリードが小さくなった。
レース後山内に話を聞くと「もう少しあのスティントは長く乗るはずでしたが、突然グリップがなくなったんです。たぶん路面温度が下がってきていたので温度が合わなくなったのだと思います」ということで、チームはピットインさせ首位のまま井口と交代した。
FCYを味方につけたライバル
ここでの交代はピットロスがほぼなく、総合10位。ピットイン2回を済ませた中では2位でコースに復帰している。が、その2周後に56号車のタイヤが外れるトラブルが発生しFCYとなった。
このFCYが運命を分けることになるのだが、FCYが出る直前に18号車と87号車がピットインをしていた。コースを走る井口はFCYの制限速度80km/hで走行中だ。ピット作業を済ませた18号車と87号車は61号車井口の遥か前でコースに復帰した。FCYがなければ当然、18号車、87号車のピット作業中に井口はストレートを通過していたはずなのだ。
だから気付けば、18号車と87号車はトップの2号車と2位の61号車井口の前を走ることになり、18号車がトップ、87号車が2位となり、井口は4位になっているのだ。しかも18号車と87号車は遠方を走行しており、井口の視界には2号車しか見えていない。なんたるバッドタイミングのFCYっだ!とチームは苦虫を潰す。

レースは再開した。井口は総合6位に順位を落とし88号車にも素早いピットワークで前に入られ、実質5位からのリスタートになった。
井口は粘り強く目の前のライバル2号車を追い詰め、スプーン手前で2号車がオーバーラン。すかさず順位を上げる。次のターゲットは88号車だが、58周目のFCY解除のタイミングで88号車が加速できず、井口はあっさりと交わすことに成功。これで見えない18号車と87号車に続く3位に浮上できた。
残り13周。井口の視界に先行する2台は見えない。遥か先だ。だが、2台のマシンのラップタイムより井口は速い。コース上で走っている全てのマシンで井口が最も速いスピードで走っている。無線では井口に向かって「プッシュ、プッシュ、追いつけるよ」と檄が飛ぶ。

井口はもはや自分との戦いだ。見えないライバルを追う井口は攻めまくる。61周目、トップと6.4秒差にまで追いついてきた。もしかすると場所によっては見えていたかもしれないがまだ遠い。残り10周。周回ごとに差を縮め「もしかすると?」の期待が湧き上がる。
ラストラップ。2位争いをする87号車とは1.6秒差、トップ18号車とは2.8秒差だ。が、しかし、届くことはなかった。井口は3位でチェッカーを受けた。レース後井口は「最後の5周はコース上にマシンを置いておくのが精一杯で、タイヤが限界でした」と悔しそうに話した。

今回のレースは、チームスタッフ、マシンともに完璧な展開だった。レース前に山内が話したように、ミスのない展開ができたわけだが、FCYのタイミングという神の悪戯なのか、激しい追い上げ劇はこうして幕を閉じた。
小澤総監督は「結果は悔しい3位ですけど、スピードで勝負する狙いはできたので収穫は大きいレースでした。次のSUGOは最も得意なコースなのでシリーズポイントでも一気に追いつくつもりでやります!」と締め括った。

次戦のスーパーGT第6戦「SUGO GT300km race」は9月16日(土)、17日(日)に宮城県村田町のスポーツランド菅生で開催される。BRZ GT300の逆襲に期待だ。
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