脳にセンサーを埋め込んで翻訳

ベネットさんの大脳皮質に埋め込まれたセンサーの位置
Credit:Stanford Medicine / Willet, Kunz, et al.

2022年3月29日、スタンフォード大学医学部の神経外科医は、ベネットさんの脳の表面の発話に関係する2つの領域に、それぞれ2つの小さなセンサーを埋め込みました。

これらのセンサーは、最先端の解読ソフトウェアと組み合わせることで、脳の活動を翻訳するように設計されています。

手術を執刀した外科医のジェイミー・ヘンダーソン医師によると、「英語話者同士の自然な会話である、1分あたり約160語の速度に近づき始めている」といいます。

また、「脳表面の非常に小さな領域の活動を記録することで、意図された音声を解読できることがわかった」とも語っています。

精度の向上と未来

ベネットさんの努力はAIを訓練するのに役立ちました
Credit:Stanford Medicine / Willet, Kunz, et al.

どの脳活動パターンが、どの音素と関連しているかをアルゴリズムに認識させるため、ベネットさんは、1回4時間に及ぶトレーニングセッションを約25回にも渡って取り組みました。

その内容とは、電話で話している人々の膨大な量の会話のサンプルから、ランダムに選ばれた言葉を繰り返して表示し、ベネットさんがその文章を暗唱しようとすると、脳活動が変換して単語に組み立てられ、スクリーンに表示されるというものでした。

ベネットさんは1回のトレーニングで260から480の文章を繰り返し暗唱しました。そして、ベネットさんが発話を試みているにつれ、システム全体の精度は向上し続けたのです。

ベネットさんとスタンフォード大学の共同チームは、語彙が50単語に制限された条件下で、AIの翻訳エラー率を9.1%にまで減少させることに成功しました。

しかし、語彙を一般的に使用される12万5000語まで拡大した際、エラー率は増加し、23.8%になりました。

この数字からも改善の余地はありますが、研究者たちはトレーニングの量を増やし、脳とのAIの相互作用を強化することで、さらにエラー率を下げることが可能だと考えています。

現時点ではまだ実験段階の技術であり、日常生活で使用できるものではありませんが、言葉を話すことができない人々のコミュニケーションの回復に向けた大きな前進であることは間違いありません。

ベネットさんはこう語っています。

「言葉を話せない人々も、この技術により世界との絆が深まり、仕事、そして愛する人たちとのつながりを保ち続けることができるでしょう」

参考文献
Brain implants, software guide speech-disabled person’s intended words to computer screen
How artificial intelligence gave a paralyzed woman her voice back
‘Big breakthrough’ as brain chips allow woman, 68, to ‘speak’ 13 years after she suffered same disorder that killed Stephen Hawking and Sandra Bullock’s partner
元論文
A high-performance speech neuroprosthesis