スーパーの冷凍食品コーナーでひときわ目を引く、黒色の地に金色の極太明朝体が躍るパッケージを見かけた覚えはないだろうか。2015年の「ザ★(R)チャーハン」発売を皮切りに、「ザ★(R)シュウマイ」「ザ★(R)から揚げ」そして「ザ★(R)ハンバーグ」とラインナップを広げている味の素冷凍食品の「ザ★(R)」シリーズである。ファミリー向けのほっこり系パッケージが並ぶなかではいささか暑苦しさすら感じさせるその見た目の通り、オトコの食欲にダイレクトに訴えかける商品パワーで、いずれも冷凍食品の中で高い人気を誇っている。その振り切った商品性を生んだ土壌と、成功に至るストーリーに迫ってみた。

お気に入りの外食店に負けない「感動品質」を家庭で再現できる形で提供する、という挑戦

 味の素冷凍食品製品戦略部の廣瀬裕貴氏 によると、「ザ★(R)」シリーズの勝因は大きく2つあるという。

「全商品に共通していえるのは、『男性や若者をメインターゲット』『今までにない感動のおいしさ』を徹底的に作り込んだことです。これまではファミリー層の主婦の方をターゲットにした商品が主流でした。しかし、「ザ★(R)」シリーズがあえて狙ったのは、男性層。食卓で旦那さんや子供たちがガツガツ食べたくなる『感動品質』を実現できれば、今日のやつまた買ってきて!となりますから」(以下コメントはすべて廣瀬氏)

 既存の冷凍炒飯が誰にでも好まれる味わいにまとまっているのに対して、「ザ★(R)チャーハン」は、男性のニーズをとことん突きつめたおいしさを目指した。そこで乗り越えるべきハードルとして、開発者たちは「お気に入りの外食店があるがなかなか行けない」「既存の冷凍食品やコンビニ弁当は満足できるものが少ない」「主菜がマンネリ化している」という、いわば味覚の満足に飢えたユーザーを想定し、彼らを満足させることを自らに課したのだという。

「外食店に負けない味を、ご家庭で再現できる形で提供するのは簡単なことではありませんでした。チャーハンの場合は、『炒め感』を出すことが必須です。熟練のプロが高火力で一気に炒めた時の香ばしさを出すために、当社が40年近く蓄積してきた冷凍炒飯のノウハウを生かして、順当に味のバランスをとって炒め感を演出しようとしましたが、どうにも納得のいくものにならない。結局はある開発者のひらめきで、にんにくを主とした香味野菜を高温のラードで揚げて作った香味油を使うという力技で、香ばしさを出すことができました」

 既存商品にはないエッジを生み出すには、なりふり構ってはいられないということだろう。「ザ★(R)シュウマイ」の開発では、「感動品質」の追求は機械の開発にまで及んだ。

「冷凍シュウマイについては、当時はお弁当用の小ぶりなシュウマイが定番でしたが、家でガッツリ食べる外食店品質のシュウマイとして、「ザ★(R)シュウマイ」を開発しました。中華料理店で名物になるような『肉々しさ』の食感を出すために、正六面体に肉を粗切りする「ダイスカット」の手法を採用しました。ところがダイスカットは機械への負荷が非常に大きく、従来のままでは、長時間、運用すると機械が壊れてしまうので、工程を見直し、大幅に刷新しました」

 そこまでこだわり抜いた結果、「ザ★(R)シュウマイ」は冷凍シュウマイの市場を広げる人気商品となった。続く「ザ★(R)から揚げ」では1個当たりで既存商品の1.5倍のボリュームを追求し、「ザ★(R)ハンバーグ」では本来ハンバーグには使われない「牛すね肉」の使用に踏み切った。すね肉はうま味たっぷりだが硬さもあり、一般的には煮込みにして食べることが多い。そこで生きたのが、シュウマイのダイスカットでも課題をクリアした同社の技術力。肉汁あふれるミンチすね肉を実現し、感動品質のハンバーグに仕上げた。