VRだからできる、より深い没入体験

――具体的なビジネスモデルについて教えてください。

新嶋:VRゴーグルと映像コンテンツを医療機関に提供して、xCuraは医療機関から収益を得ます。セラピアVRを利用する患者様は、1回当たりの利用料を医療機関に支払うモデルです。

ちなみに、「保険適用の治療中にVRを使用しても、混合診療(※)にはあたらない」というのが関係省庁の見解です。たとえて言うなら、治療中にテレビを見るのと同じ扱いとなっています。

※混合診療:保険診療と保険外診療を併用すること。

セラピアVRのビジネスモデル(提供:xCura)


――患者側からすると、人の手で催眠療法を受けるのと、どんな違いがあるのでしょうか?

新嶋:催眠の技法とは、要は何かに集中させる技法です。催眠状態とは、催眠療法士の言葉に従って自分の頭の中でイメージを作り、そのイメージに没入している状態だと言えます。

催眠療法士が直接おこなう場合は、言葉でイメージを促しますが、たとえばVRの場合は「あなたは今、森の中にいます」とイメージさせるとき、360°の映像を目の前に映せるんです。つまり、頭でイメージすることが苦手な人でも、より深く没入しやすくなります。

また、催眠療法士が治療現場にいなくても、機器さえあれば手軽に利用できる点も大きなメリットです。

VRで「病院に行くのが楽しみ」になる?

――海外展開も視野に入れているそうですね。

新嶋:インドネシアでは、実際に現地でトライアルを実施しました。とくに発展途上国では、大きな病院でも鎮静剤を投与できる環境が整っていないケースや、日本だと全身麻酔を使用する手術でも、局所麻酔で手術をおこなうケースが多いんです。

VRであれば、専任の医師でなくても使用できますし、薬のように使用期限はありません。発展途上国におけるニーズは高いだろうと考えています。

――技術やサービス面では、どのような構想を抱いていますか?

新嶋:VRでアイトラッキングを用いて、瞳孔の動きを測定する研究を始める予定です。研究の成果を、痛みや不安の軽減に生かすのはもちろん、たとえば歯科の治療中に目の検査をしたり、認知症の予兆を読み取ったりなど、検査や健康アドバイスへの応用も検討しています。

VRを活用した心理療法の画面サンプル


――xCuraは「治療をエンターテイメントに変える」とも掲げていますよね?

新嶋:現在、セラピアVRで提供しているサービスは、VRと心理療法の組み合わせだと言えます。将来的には、ただ心理療法を受けるだけではなく、見ていて楽しくなる映像を使用することで、治療自体を楽しく感じられるようにするのが一つの目標です。

たとえば、お子さんに動物の映像を見せて、心理療法を受けながらも楽しい世界にいるような、今までにない治療体験の実現を目指しています。

――「楽しい治療体験」が実現できれば、治療を怖がる人たちの行動変容につながりそうですね。

新嶋:今まで治療中の時間は、何もせず、ただ痛みに耐えるだけの時間でした。その時間を有効活用したり、楽しい時間へと変えたりできるように、今後も新しい技術やサービスを生み出していきます。

(取材/文・和田 翔)