その理由は複合的で輸入物価の上昇と人件費上昇に伴うサービス価格の上昇、また企業の便乗値上げも若干見て取れます。私が5月頃に日本の物価は上がると申し上げた際、若干の疑義のコメントを頂戴しました。実はあの時、私には100%の確証がありました。それは多くの方が忘れていたガソリンと電気の補助金がなくなりつつあること、また電気については6月から大幅値上げすることで物価指数に反映されることが明白だったからです。
また人件費については政策的に全国最低賃金1000円という目標もありますが、慢性的な人材不足で労働力の需給関係がタイトになり、一部業種では1200-1300円でも人が来ない状態になっています。当然、それは最終消費者への価格転嫁になります。
もう1つはコロナに伴うゼロゼロ融資が逆回転し、物価の下支えをしている可能性です。これはほぼ誰も指摘していないと思いますが、ゼロゼロ融資で助かったのは中小企業というより零細企業だったと思います。一部ではほとんどビジネスになっていなかったところに多額の支援金や融資が舞い降りてきてゾンビ状態になったわけです。これらが現在淘汰されつつあります。倒産件数は今年9千件近くになってもおかしくないでしょう。それが意味するのは不当に安い事業者の市場からの退場であり、安さを競うことからしっかりした経営をすることに軸が移動するとみています。
世界物価を見ると懸念材料はあります。それは資源価格が上昇している点です。原油はここにきて振れ幅上限の80㌦/バレルを超えてきています。ガスも遅ればせながらもようやく火がついたように上昇しています。昨年冬は暖冬だったため、ガスの価格は低く抑えられました。資源価格の上昇はウクライナ問題が間接的に影響しているという見方もありますが、相場を見続けている私としてはより政治的事情が絡んできているように見受けられます。まさかとは思いますが、原油価格を高めに誘導してEV化を進めようとする魂胆があるのではないか、とすら疑いたくなります。
最後に景気の見方ですが、中国経済をどう見るか、であります。一部の見解に中国への規制が進めば日本は特需があるという発想があります。それは否定しないですが、むしろ日本の最大の貿易相手国である中国の国内消費の低迷と政治的圧力による日本企業の中国向け輸出減退のほうがはるかに大きなマイナス影響になります。
そのあたりを複合的に勘案すると先々、日本の消費物価はスタグフレーション型にならないとは限りません。その場合、消費物価を下げるために利上げし、円高を引き起こし、輸入物価を下げるという治療方法があります。とすれば植田総裁はYCCの完全撤廃、ゼロ金利撤廃、ETF売却、金利正常化と手段はいくらでもあるわけで24年にかけて物価と景気との駆け引きがキーになりそうな気がします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月21日の記事より転載させていただきました。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?