ウィーンに来たら絶対に食べたい料理ナンバーワンに輝く「ウィンナーシュニッツェル」。仔牛肉をたたいて薄く伸ばし、衣をつけてからっと焼き上げたカツレツは、オーストリア人の大好物です。
今回は、19世紀の名店の味を再現した「ウィンナーシュニッツェル」のレストランの、ちょっと変わった歴史とサービスをご紹介します。
目次
ウィーン料理の老舗の後継者
歴史と伝統を受け継いだコンセプト
ウィーン料理の老舗の後継者
ハプスブルク帝国全盛期の1896年、ウィーンの目抜き通りケルントナー通りにホテル「マイスル&シャーデン(Meissl&Schadn)」がオープンしました。17世紀中ごろからこの場所には別の名前のホテルがあり、18世紀末にはヨーゼフ・ハイドンがここで「オーストリア皇帝賛歌」(元オーストリア国歌、現ドイツ国歌)を作曲した場所でもあります。建物裏には同名のレストランが作られ、「牛肉料理好きの聖地」としてウィーンの著名人や富裕層の間で話題になりました。
このレストランの客には、作曲家グスタフ・マーラーやリヒャルト・シュトラウスのほか、精神医学者ジグムント・フロイト、劇作家のアルトゥール・シュニッツラーや作家シュテファン・ツヴァイクなどのそうそうたるウィーンの名士が名を連ね、戦間期には伝統的ウィーン料理で最も名の知られたレストランでした。
第二次世界大戦の空爆と火災によりこの建物は半壊し、現在はケルントナー通り側の2階部分に残る美しいモザイク画が当時の姿を伝えているのみとなっています。ホテルとレストランはその後閉業し、現在大幅に改修されたこの場所には、別のホテルが営業しています。

こうして途切れてしまったウィーン料理の老舗の伝統が復活したのは、2017年。全く別の場所である、リング大通りに面した新しいホテルの一階に、「マイスル&シャーデン」の名を冠したレストランができました。

このホテルの建物自体変わった過去を持っています。1950年代にオフィスビルとして建てられた後、1990年代から2011年にはスパイ関連の警察組織である、「連邦憲法擁護とテロ対策局」という国家機関が入っていました。当時は全てのブラインドが閉じられ、建物を撮影しようとした人は追い払われたそうです。
この組織が移転した後に大幅改修が行われ、2017年にオープンしたのが「ホテル・グランド・フェルディナント」で、このホテルの三つのレストランの内の一つがこの「マイスル&シャーデン」ということになります。

歴史と伝統を受け継いだコンセプト
肉料理の老舗の名を冠したこの新しいレストランでは、19世紀当時の椅子やテーブル、ハプスブルク家御用達ガラスブランド「ロブマイヤー」のシャンデリアなど、可能な限り当時の内装を再現しています。料理に関しても、研究者と共に歴史的レシピを発掘し、全盛期にウィーン人ブルジョアに愛された味を再現しているそうです。

店内では、目玉料理であるウィンナーシュニッツェルの調理実演が行われています。仔牛肉を専用のハンマーで薄くなるまで叩き、衣を丁寧につける工程は、通りからも見学することができます。

シュニッツェル肉を揚げる油は、ラード、植物油、溶かしバターの三種類から選ぶことができますが、もちろん19世紀末のウィーンの文化人たちが愛した伝統的な揚げ方は、ラードを使用したものです。パリパリに揚げたばかりのシュニッツェルをお皿に盛ってサーブされる様子も、じっくり眺めることができる貴重な機会です。
