塩野義製薬が、アフリカに住む母と子どもの健康改善に向けた取り組みを推進するプロジェクト「Mother to Mother SHIONOGI Project」。世界平均を大幅に下回る妊産婦と5歳未満児の死亡率を改善すべく、どんな支援を行っているのか。U-NOTE編集部は、同プロジェクトを担当する松岡瑛梨子さん(リーダー)と谷由香利さんに塩野義製薬の取り組みをお伺いしました。

前編「日本とはまるで違う…… 塩野義製薬社員がアフリカの貧困地域で見た保健・医療の現実とは」はこちら

始まりは、1人の塩野義製薬社員の思い

松岡さんと谷さんがアフリカの貧困地域で見た厳しい医療・保健環境。その環境で暮らす母子の健康を守るべく、塩野義製薬が国際NGOのワールド・ビジョン・ジャパン、ジョイセフとのパートナーシップで進めているのが「Mother to Mother SHIONOGI Project」です。

妊産婦死亡率と5歳未満児死亡率、5歳未満児の死亡要因のデータ(塩野義製薬のWebサイトより引用)

このプロジェクトが始まったきっかけは、塩野義製薬を休職して2009年から2年間、国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として土田愛さんがケニアに赴任したことでした。

土田さんは、HIV治療にかかわるボランティアに従事していたものの、薬は無償でも本当に必要な人々には届いておらず、それだけでは支援にはつながらないことにはがゆさを感じたそうです。

赴任を終えて帰国した土田さんは、アフリカの母子健康改善プロジェクトを会社に提案。土田さんの思いに共感する人が社内で増えていき、2015年10月に全社プロジェクトとなり、塩野義製薬およびその従業員からの寄附をもとに、ワールド・ビジョン・ジャパンの協力によって「Mother to Mother SHIONOGI Project」はスタートしました。

      写真中央が土田愛さん(塩野義製薬のWebサイトより引用)

プロジェクトの内容

プロジェクトが目指しているのは、「アフリカで暮らす人々が自分たちで保健活動を回していけるコミュニティをつくること(松岡さん)。実現するための活動は、保健施設・機材の整備や巡回診療の実施に加え、医療従事者の能力強化、コミュニティへの教育・啓発、水衛生環境の改善など多岐にわたります。

(松岡さん)「そもそも医療サービスを受けること自体考えになかったり、子どもを産む時には病院へいくといった日本では当たり前なことでも<病院へ行くのは弱いことだ>というような価値観があったりという文化的な背景もあり、支援地で習慣化された行動を変えるのは難しいことです。

特に衛生行動については、屋外排泄の習慣があるマサイの人たちがトイレの必要性について教育を受けても、なかなかトイレの建設が進まないこともありました。

そうした意味で、支援地の政府や住民と良好な関係を築き、困りごとをよく理解し支援を推進してくださるプロである国際NGOさんのお力が欠かせません」

(谷さん)「環境が整ったことで、施設分娩がいかに安全かをお母さんたち自身が初めて体感し、その考えが他のお母さんへ口づてに広がっていきました。施設分娩は出産後の回復が早いことを知らなかったり、選択肢がそもそもなかったりしていたところから、出産できる環境を選択できるようになったことは重要だと思っています」

      松岡瑛梨子さん

松岡さんと谷さんは、支援地に行った際に、保健省や行政機関に事業地の課題や事業の成果などを伝えるアドボカシー(当事者に代わって意見や考えを表明すること)を行っているそうです。

(松岡さん)「『薬の在庫がありません』『診療所で電気が止まっています』とか、医療施設や保健に関する課題を出し合い、コミュニティが必要としていることに保健省として対応してほしいことをNGOさんと一緒に要望しています。国際NGO、企業といった、さまざまな立場からの視点がより良い要望になると考えています」

      アドボカシーの様子

取り組みの結果、ケニアのナロク県で行った第1期事業(2015年10月~2021年7月)では、診療所への来院者数が年平均で1.8倍、保健施設で出産する母親の割合は2018年から2021年で4%から47%に増加し、下痢症有病率が58%改善するなどといった効果があったそうです。