財政状況は先進国最悪というのに、国家予算は11年連続で過去最大を更新し、さらに23年度予算は114兆8000億円で、5年連続で100兆円を越しました。国政選挙、地方統一選をやるたびに、票稼ぎに国家資金を使いまくったツケでしょう。
この8月末に締め切る概算要求基準(予算要求の上限)では、少子化対策、物価対策では、金額を明示しない「事項要求」という抜け穴が設けられ、予算抑制のタガが外れることになりました。GDP2%まで拡大する防衛予算、脱炭素化(GX=グリーン・トランスフォーメーション)への出費といい、これに総選挙が重なっていたら、ひどいことになっていたでしょう。
このままでは、民主主義社会を支える基盤である財政の持続性が失われます。民主主義社会は選挙によって運営されていくのに、選挙をやりすぎると、政治主導による人気取りの予算編成、政策の乱造で結局、民主主義社会を自壊させることになりかねないのです。
政治ジャーナリズムはそうした基本的な病理現象を指摘すべきなのに、目先の政局動向を追う日々が自分たちの仕事だと錯覚しています。
優れた学生の公務員離れ進んでいます。国家公務員の試験申し込み者は23年度、2万6300人で前年度に比べ6%減です。一方、女性の合格者は3300人で全体の40.3%を占め、過去最高になりました。その点は評価できるにしても、勤務10年未満で退職する若手官僚が19年度に140人に上り、10年で倍になりました。
人事院の総裁が岸田首相に「公務員の初任給1万円上げ、ボーナスは4.5か月分、週休3日の対象者を拡大」などを訴えました。仕事量が増える一方で、しかも政治主導による政策決定が進み、まともな官僚が嫌気を起しているのでしょうか。首相の側近が「俺の言うことを聞かなければ、お前なんか飛ばしてやる」と、怒鳴ったというではありませんか。
メディアが見落としているのは、国家予算の金額膨張は業務量の拡大のバロメーターであることです。11年連続で財政規模は最大を更新し、5年連続で100兆円を超し、公務員の仕事量、業務量も急増していることを意味します。公務員の定員は一定でしょうから、激務に振り回されているか、下請け(外注)に回す業務も増え、多くのトラブル、不始末、ミスを生む原因になっているのでしょう。
川本人事院総裁は初任給引き上げなど、初歩的な要求をするのではなく、「公務員の仕事量は財政支出の規模拡大、それを可能にしている財政赤字の膨張に見合って、急激に増えている。そこを首相は直視していただきたい」とでもいうべきでした。総裁がいわないのであれば、政治ジャーナリズムが指摘してもよさそうなものでした。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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