ちなみに、旧ソ連時代の最大の核実験地は現在のカザフスタンにあったセミパラチンスク核実験場で456回の核実験が実施された。具体的には、大気圏実験86回、地上実験30回、地下実験340回。最初の実験は1949年8月29日。最後の実験は89年10月19日だ。その総爆発力は広島に投下された核爆弾の2500倍という(「旧核実験場だったカザフの『決意』」2010年8月30日参考)。
プーチン大統領は昨年9月21日、部分的動員令を発する時、ウクライナを非難する以上に、「ロシアに対する欧米諸国の敵対政策」を厳しく批判する一方、「必要となれば大量破壊兵器(核爆弾)の投入も排除できない」と強調し、「This is not a bluff」(これははったりではない)と警告を発した(「プーチン氏『これはブラフではない』」2022年9月23日参考)。
プーチン氏の発言を受け、インスブルック大学国際関係の専門家ゲルハルド・マンゴット教授はオーストリア放送とのインタビューの中で、「ウクライナ軍の攻勢を受け、戦局が厳しくなった場合、ロシアが戦略核兵器を居住地でない場所で爆発させ、威喝する可能性は考えられる」と指摘していた。また、独週刊誌シュピーゲル(昨年10月29日号)は、「ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争で核兵器を投入するか」について特集した。そして人類の終末を象徴的に表示した終末時計(Doomsday Clock)が「0時まで残り100秒」という見出しを付けていたほどだ。終末時計は、米国の原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic Scientists)が毎年、発表しているものだ。
プーチン氏はウクライナ戦争で即戦略核兵器を使用すれば国際社会の反発が大きいことを知っているから、核実験を実施して核兵器の怖さをウクライナと欧州諸国に誇示する作戦に出るのではないか。最近の核実験は北朝鮮の2017年9月3日に実施したものだが、欧州大陸でのロシアの核実験は1990年10月以降はない。それだけに、ロシア連邦領のノヴァヤ・ゼムリャ島で核実験が行われれば、欧州諸国へのインパクトは大きい。ウクライナを軍事支援してきた欧州諸国の国民の中にも反戦の動きが活発化することが予想できる。すなわち、核兵器の投下より核実験の実施のほうが効果的だという考えだ。
ロシアのプーチン大統領は今年2月21日、年次教書演説でウクライナ情勢に言及し、米国との間で締結した核軍縮条約「新戦略核兵器削減条約(新START)」の履行停止を発表した。それだけではない。ウィーンの外交筋によると、ロシアはウィーンに事務局を置く包括的核実験禁止条約(CTBT)から離脱する意思をちらつかせているという(「ロシアはCTBTから離脱するか」2023年2月23日参考)。
CTBTは署名開始から今年で27年目を迎えたが、法的にはまだ発効していない。ロシアは署名、批准を完了しているが、核保有国の米国と中国がまだ批准していない。だからロシアがCTBTから離脱しても、米国はロシアを批判できない。ロシアが核実験モラトリアム(一時停止)を破った最初の核保有国となったとしても国際社会の批判は限定的だ、という読みもあるだろう。
以上、北極のロシア連邦領でのロシア海軍の大規模軍事演習の動向やショイグ国防相の現地視察から、ロシアが近い将来、核実験を実施する可能性が極めて高いと予想できる。なお、8月29日は「核実験反対の国際デー」((The International Day against Nuclear Tests)だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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