2018年、ソフトバンクとヤフーが共同出資するかたちでサービスを開始し、現在ではQRコード決済の雄として確固たる地位を築いた「PayPay」。気軽に金額をチャージできて支払いできる点、おサイフケータイ非対応のスマホでも利用可能な点、ユーザー間で送金や割り勘が行える点などの利便性やメリットが話題を呼び、加盟店数とユーザー数を飛躍的に伸ばしてきた。今年3月時点の利用可能箇所数は235万カ所以上、4月時点の登録ユーザー数は5700万を突破しており、国内のキャッシュレス化に大きく貢献したサービスのひとつといえるだろう。
そんなPayPayだが、少し前にTwitter(現X)上に投稿されたツイートが話題になっている。とある飲食店のお知らせを撮影した写真が投稿されており、そこには「PayPayやめました!」と書かれている。同店の主張によれば、売上の2%を決済手数料としてPayPayに支払わなければならず、「『汗をかかずに儲かるシステム』への小さな抵抗」としてPayPayのビジネスモデルを疑問視し、契約を解除したというのだ。
このツイートは7.2万以上のいいねを獲得し、リプライ欄でも多くの意見が寄せられていた。「PayPayを叩くのは筋違い」といった意見もある一方で、「薄利である小売業や飲食店で売上の2%の手数料はかなりデカい」「決済手数料は商品に転嫁されて、消費者が知らず知らずに負担している。PayPayで払ったら2%値段が上がりますって言われたら、誰もPayPayなんて使わない」などとデメリットを指摘する声も見受けられた。
こうしたPayPayへの反応は、なぜ起きているのだろうか。またPayPayの利用率が下がった場合、キャッシュレス化の普及後退につながる可能性はあるのだろうか。消費生活ジャーナリストの岩田昭男氏に解説してもらった。
PayPayは中小、零細の店舗を上手く取り込み成功した
PayPayはかねてから加盟店、ユーザーの間でサービスが改悪されているといわれてきた。 加盟店から反感を買うようになった出来事のひとつとして、決済手数料の有料化が挙げられる。PayPayは18年のサービス開始当初から店舗での決済手数料無料を貫いてきたが、21年10月からは1.60%、もしくは1.98%の手数料が発生するようになった。手数料約2%ともなると、加盟店への負担も小さくなく、反感を抱く店舗が出てきてもおかしくはない。
「当初のPayPayは、手数料無料、かつ導入コストも高くないという謳い文句で営業しながら、着実に加盟店数を伸ばしてきたサービスです。しかし、19年から20年、消費税引き上げに伴い、国から消費者に対し最大5%のポイント還元が行われたキャンペーン『キャッシュレス・消費者還元事業』の終了後、PayPayの決済手数料が有料化すると噂され始めまして、PayPayの加盟継続を忌避する動きが密かに浸透していきました。特に20年以降は、コロナ禍の経済的な被害がまだまだ深刻で飲食店も打撃を受けていた時期でしたので、余計な支出を増やさまいとPayPayとの契約をやめようかと検討していた店も多かったかと思われます」(岩田氏)
こうした変更により、PayPayからの離脱を視野に入れる加盟店、ユーザーも増加すると思われたが、PayPay利用者の数は減るどころか、むしろ増え続けている。そして、22年度の連結決済取扱高は約10兆2000億円となり、決済回数は51億回と前年同期比約1.4倍の成長を見せていることから、着実にPayPayは成長していると評価できるのだ。PayPayがここまでシェアを広げられたのは、圧倒的なPayPay経済圏を構築できたことに起因するという。
「PayPayの最大の勝因は、クレジットカードを導入していない小規模、零細店の攻略にあったといえます。中小、零細店は、クレジットカードの導入をコスト的な観点からためらうことも多かったのですが、PayPayは手数料無料で導入コストも低かったので、シェアを高めることができました。小さな居酒屋などで、クレジットカードは使えないがPayPayでの決済はできるというお店が増えたのは、中小、零細店のニーズをうまく汲み取ることができたからなんです。別の言い方をすれば、一定の客層に対して、しっかりとニーズを掴み、逃がさないような戦略を成功させた、という評価もできるでしょう。
こうして、多くの店舗で利用できるようになったことで、PayPayを使い始めるユーザーが増えていき、店舗数もユーザー数も相乗効果で伸びていくという好循環が生まれました。そしてPayPay側はユーザー数がかなり増えた段階で、手数料有料化に踏み切ったわけですが、今や登録ユーザー数が5000万人超の決済サービスとの契約を解除するという決断は、店舗側としては簡単にできるものではないでしょう。手数料無料に魅力を感じて加盟した店も、PayPayをやめるにやめられない状況になっているというわけです」(同)