なぜわが国には外国人スパイを取り締まる「スパイ防止法」がないのか。日本の場合、外国人スパイは逮捕されたとしても、せいぜい国外追放されるだけだ。日本に「スパイ防止法」が施行されていたならば、逮捕した外国人スパイに厳しい刑罰を科すことが出来るから、スパイも不用意な言動は出来ない。スパイ活動は国家の機密、安全保全を脅かす行為だ。主権国家ならばどの国でも厳しい法体制を敷いている。

日本では野党、そしてメディア機関は「スパイ防止法」が施行されれば、国家の統制が強化され、自由な言論活動などが阻害され、人権も蹂躙されると叫び、強く反対してきた経緯がある。そのため、日本ではこれまで「スパイ防止法」が施行されず、不正競争防止法や外国為替及び外国貿易法(外為法)で対応してきた。外国人スパイにとっては、日本でほぼフリーハンドでスパイ活動ができる。日本が「スパイ天国」と呼ばれる所以だ。そのような国に米国が軍事機密を全て提供できるだろうか。

ところで、スパイ活動の取り締まりの強化に乗り出しているのは中国共産党政権だけではない。ロシアのプーチン大統領は今年2月28日、モスクワで開かれたロシア連邦保安局(FSB)幹部会拡大会議で、「ロシアの社会を分裂、破壊しようとする違法行為を摘発すべきだ」と訓示し、国内の諜報機関FSBに対し、西側のスパイ活動への対策強化を求めた。

中国共産党政権がスパイ関連法を強化し、ロシアは外国への監視強化、スパイ摘発を強化していることに、日本はこれまで懸念を表明するだけに終始した。今、米国から圧力がかかってきたのだ。日本側はぐずぐずしている場合ではない。

忘れてならない事は、日本が依存する米国は同盟国の日本でも軍事分野だけでなく、ほぼ全分野で情報を収集していることだ。欧州連合(EU)の盟主、ドイツのメルケル首相(当時)はオバマ米政権がドイツでも盗聴工作を展開させていたばかりか、自身が愛用している携帯電話も傍受されていたことが判明したことから、「同盟国の政治家の対話を盗聴していたことは許されない」と激怒し、オバマ大統領に電話で「重大な背任行為だ」と強い抗議をしたことがあった(「米国は盗聴工作を止めない」2013年10月26日参考)。NSAは当時、世界の35カ国の指導者を盗聴していたという。

現実はハードだ。紳士的にふる舞っていればいい時は過ぎた。情報戦は映画の世界だけではなく、リアルな世界だ。日本の政治家はその事を忘れてはならない。繰り返すが、日本は米紙の報道を「スパイ防止法」を制定する好機とすべきだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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