「第三者の目」でチェックする仕組み

――調査報道では、こうした内部告発者の証言をできるだけリアルなかたちで放送したこという取材者側の思いと、その際にボカシやモザイクなどをかけて身元がわからないようにしなければならないという取材源秘匿の目的は対立します。2つの相反する目的の調整が難しいように思います。実際の報道現場ではどうしているのでしょうか。

水島氏 確かに取材をする記者やディレクターの立場からすれば、せっかく自分が取材したのだからと、映像をできるだけそのままリアルなかたちで伝えたいという思いを持ってしまう面があります。それを突きつめれば、ボカシやモザイクなどをなるべく使わないで放送するということにつながってしまいます。取材に証言してくれた人の身元がわからないようにすることは大事なルールです。実際の報道現場では、個々の記者やディレクターらの判断に委ねられてしまっています。個人の判断に任せているので、ときどきこうした問題が起きてしまいます。編集のデスクなど、別の立場の人間が「第三者の目」でチェックする仕組みがあれば問題は起きなかったと思います。

――これまで同じようにモザイク処理に関連してBPOで問題になったケースはあったのか。

水島氏 2012年に大津市の中学生がいじめを受けて自殺したとされる事件の民事裁判について伝えたフジテレビの『スーパーニュース』で、加害者側の少年の実名がモザイク処理などをせずに短く放送されました。放送時のキャプチャ画像がネット上に流出して、BPOが「放送倫理上の問題あり」と見解を公表したケースがあります。12年の段階では、現在ほどテレビ側も「放送した映像がすぐにネットに上がる」というリスクをそれほど重視していないなかで起きた出来事でした。それから10年以上経って、ますます放送した番組での個人のプライバシーがネット上に流出するおそれが大きくなっています。

――今はテレビの映像がすぐにネットに上がって、いろいろな人がチェックすることができる時代です。そうした時代になったことで、こうした「取材源の秘匿」を考える必要性が出てきたといえるのではないでしょうか。

水島氏 その通りだと思います。かつてはテレビの番組は放送して流れてしまえば、録画する人がいなければそれっきりでした。でも現在は大きく違います。現在、テレビのニュース映像は基本的にすぐにネット上に公開されます。多くのテレビニュースの映像はYouTubeなどで視聴可能になっています。この傾向はこの2、3年で急速に進んでいます。今回、問題になった『news 23』も「TBS NEWS DIG」というサイトで動画を何度も確認することができる状態でした。そうなってくると、個人について探ろうとする人は繰り返し視聴して、本人の手元や衣服、靴、体型などあらゆるものから本人を特定しようとします。

 内部告発者を守るためにも、そうした特定の試みができないように最大限の配慮をしなければいけない時代に入っています。報道する側もいろいろと注意すべきことが多くなって大変な時代です。BPOではそうした時代の変化も見据えた議論をしてほしいと思います。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

提供元・Business Journal

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